オープンイノベーションの加速を実現する、クボタの新オフィスとは?

2024.08.21

大阪・難波の商業エリアに本社を構えている株式会社クボタ。今春、同社の本社機能をグラングリーン大阪に移転することを発表した。大阪・梅田を新たな拠点とする狙いやオープンイノベーションを推進するための新オフィスの構想、そして、新天地での展望について、クボタ副社長・吉川正人さんと、新オフィスのプロジェクト推進メンバーに話を聞いた。

左から、古野 弘典さん/株式会社クボタ(総務部 総務課 課長)、髙山阿悠さん/株式会社クボタ(人事部 労務厚生課)、吉川正人さん/株式会社クボタ(代表取締役 副社長執行役員 企画本部長 人事・総務本部長 本社事務所長)、則政めぐみさん/株式会社クボタ(人事部 労務厚生課)

1890年に大阪で創業したクボタは、以来、水道用鋳鉄管や農業機械など、人と社会に貢献するさまざまな製品・サービスを生み出してきた。食料・水・環境に関わる地球規模の課題解決にも積極的に取り組み、2021年には「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」になることを指針とする長期ビジョン「GMB2030」を発表。日本のみならず世界の食料・水・環境に貢献し、グローバル企業として更なる発展を目指している。クボタのこれまでの歩みについて副社長の吉川さんは「クボタの事業は鋳物から始まりました」と紐解く。 「創業者の久保田権四郎が1890年に大阪で鋳物業を開業し、はかりの分銅から事業を始めました。そこから派生した“はかり”の製造はいまでも我々の事業のひとつとして続いており、今年で100周年を迎えます」 また、創業当時から社会課題の解決を念頭に置いた事業にも取り組んでいる。明治時代にコレラなどの伝染病が蔓延した際には、国を挙げて上水道の整備が進められているなかで、1897年に日本初の水道用鋳鉄管の製造に成功した。 「鋳鉄管やポンプ、バルブといった水関連の資材の製造販売から、下水処理などの水処理といったプロセスまで、多角的に展開してきました。社会のニーズに応える形で、廃棄物の焼却場などの廃棄物処理、そしてリサイクル分野まで展開してきた一連の流れがあります」

「同質的な集団では変革が起きないというのは企業経営でもよく言われていることです。だからこそダイバーシティが必要であり、グラングリーン大阪で多種多様な人々と接する機会を増やすことは、我が社の同質性の打破につながっていくだろうと個人的に期待しています」と吉川副社長。

もうひとつの流れは、クボタの主要事業のひとつである産業用エンジンだ。創業以来培ってきた鋳物製造技術を活かしたエンジンの用途は、農業機械、建設機械と多岐にわたる。 「水道用鋳鉄管から、エンジン、農業機械と、鋳物に端を発し、いつの時代も社会のニーズに応える製品を提供してきました」と吉川さんは続ける。 食料、水、環境の分野で、社会が求める本当に必要なものを供給していくことを会社のミッションとして成長してきたクボタ。新たなイノベーション創出の地をグラングリーン大阪に定めた理由はなんだったのだろうか。 「クボタは、社会課題の解決を目指してさまざまな製品やソリューションを提供してきました。しかし、時代の変化を受けて、自分たちの工場でモノをつくって販売するといったビジネスモデルだけでは、お客様のニーズに応えられなくなってきているのではないかという危機感がありました」と吉川さん。AIなどの技術革新やグローバル化が急激に進み、産業構造がこれまでにない大きさとスピードで、不連続に変化し続ける大変革時代に突入している。それに伴う顧客のニーズの変化について、例を挙げながら説明する。 「たとえばクボタが開発したコンバインは、稲の刈り取りや脱穀など収穫作業をしながら、その穀物の収穫量やコメの食味に関わるたんぱく含有率、水分率を10~20mのメッシュで計測することができ、そのデータを翌年の営農計画に活かすことができます。この機能の精度をさらに高めるために、衛星画像を活用して生育の傾向をAI 解析するサービスを持つ他社と連携を進めています。こうして最先端技術を持つ他社と一緒にソリューションをつくることでよりお客様のニーズに応えることができる。それを実現・推進していくためには、社外の人と積極的にコミュニケーションし、コラボレーションの共創を促進していくことが、我々の事業が成長する道であると考えています」

「JAM BASE」には、会員制交流スペース「Syn-SALON」やコワーキングスペース「JAM-DESK」など、さまざまなオープンスペースが存在する。多種多様な人々がそれぞれの立場を越えて、イノベーション創出につながる交流がなされていく。 ※2023年9月時点のイメージパースであり、今後変更となる可能性があります。(提供:グラングリーン大阪開発事業者)

グラングリーン大阪には、産官学民の中核機能施設「JAM BASE」が開設される。大学や研究機関、スタートアップ企業など、多様な人々が集いコラボレーションし、新たなアイデアを形にする拠点だ。本社機能を移転する狙いについて吉川さんは次のように語る。 「現在でも、グランフロント大阪のナレッジキャピタルにクボタも入居し、さまざまなスタートアップ企業の方々と協力関係を築いていますが、グラングリーン大阪では、スタートアップ企業や大学・研究機関とより連携がなされイノベーションが創出する土壌が整っています。コミュニケーションをさらに積極的に図り、我々の事業の成長をドライブすることにつながっていく。それが本社機能を移転する大きな理由になります」 また、農業機械メーカーとして、国内トップシェアのクボタは、世界でも高い売上高を誇っている。世界に拠点を置くグローバル企業としてもグラングリーン大阪の関西国際空港へのアクセスの良さも魅力のひとつだったと吉川さんは続ける。 「弊社の売り上げの約8割が海外です。グループ全体の従業員数で見ても海外の方が多い状況になってきています。海外拠点への出張や海外から訪日するお客様などもかなり多い。そうした方々とのコミュニケーションの促進にも、新オフィスには期待しています」 産業構造が変化する時代でクボタがさらなる飛躍を遂げるためには、最先端技術、そして、新しいソリューションを生み出すために必要な人財が揃う場所で共創を促進していく必要がある。関西国際空港との直結や関西交通網のハブとして、情報や人財が集まるイノベーションのプラットフォームが構築されているのが、グラングリーン大阪なのだ。 新たなオフィスは「グラングリーン大阪・パークタワー」15階から19階に位置する。オフィスを内覧した古野弘典さんは最初の印象を次のように振り返る。 「新オフィスからは、緑豊かな公園や淀川を一望でき、非常に素晴らしい景観だと率直に感じました。それと同時に、食料・水・環境に関する社会的課題の解決をミッションとしてグローバルに事業を展開する弊社にマッチした場所で、ここで働くことに身が引き締まるような思いでした」

「創業以来、難波エリアでは非常に多くの地域の方に支えられてきました。うめきたエリアに移転してからも地域の皆様やコミュニティなど幅広い方々との関係性をこれからも構築していければと思っています」と古野さん。

大阪市浪速区にある現在の本社は、1970年前後に竣工した複数の建屋から構成されているが、老朽化が進むと同時にグループ会社や部門間のコミュニケーションをとるスペースの確保が難しい状況だった。新しいオフィスは、現在の本社と比べると、1フロアあたりの面積は約5.5倍の広さとなる。複数のグループ会社や部門が同じフロアで働くことができ、組織の垣根を越えて交流する機会が増えるという。新オフィスのキーワードは「共創」と「コラボレーション」だと古野さんは語る。 「共創を生み出すさまざまな仕掛けを施し、皆が出社したくなるオフィスづくりを目指しています。コミュニケーションを活発にできるような動線やフロアレイアウトなどのハード面を整えるとともに、ソフト面でも改善していきます。たとえば弊社も一部でフリーアドレスを導入していますが、まだコミュニケーションが活発になっているとは言い切れません。そういったケースも改善しながら、DXやITといった技術で人と人をつなぐ仕組みや仕掛けもつくっていけたらと考えています」 新オフィスの空間づくりプロジェクトに参画する則政めぐみさん。オフィス空間づくりのなかでも、とりわけ社内コミュニケーションを活性化させる空間づくりを担当する。

「私たちクボタが梅田に来ることによって、うめきたエリアの活性化につながり地域の皆様にクボタが来てくれて良かったと思っていただける貢献をすること、また私たち自身がクボタで働くことを誇りに思う環境づくりをしていきたいです」と則政さんが意気込みを語る。

「新しいオフィスでは、社内外のコミュニケーションが活性化する空間づくりを目指しています。まだ構想段階ですが、ひとりで業務に集中したい人を対象としたワークスペースをはじめ、社内外のスタッフ同士で自由にアイデアを出して議論できるようなディスカッションスペースや従業員同士が気軽に集まってコミュニケーションがとれるスペースなど、多彩な空間をつくっていきたいと考えています。個人的に導入によって新しい空気が生まれるのではと期待しているのは、階段型のピッチスペースです。ディスカッションやプレゼンテーションなどを時にリラックスして、時に熱量を持って行えるような空間にできればと思っています。多彩なオフィス空間を設けることで、仕事の内容や気分に合わせて働く“場所”と“時間”を自由に選択できるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の実現を目指しています」 従業員のコミュニケーション活性化に向けた社員食堂をつくることに奮闘しているのは、髙山阿悠さんだ。現在の本社食堂でもクボタならではのこだわりがあり、新オフィスでもさまざまな仕掛けを考えている。 「現在の本社食堂はビルの地下に位置していて、2023年に一度リニューアルをしています。単に食事を摂る場所ではなく、打ち合わせや交流スペースとして活用できるようモニターが設置されたスペースやくつろげるソファ席など、什器にもこだわり、従業員同士のコミュニケーションが活発に行える空間になっています。新オフィスの社員食堂も、多様な用途で活用できる空間にするという趣旨は踏襲していきます。そのうえで、オフィス空間同様に社員食堂においても、部門内外のコミュニケーションの促進という観点を取り入れていきたいと考えています」

「自分が就活生だった時のことを思い出しました。本社移転で施設が一新することで、立地や施設に惹かれて新しく志望する方も増えると思います。国内外問わず多様な人財が集い、新たなアイデアの創出の場となるのが楽しみです」と入社2年目の髙山さん。

社員食堂にもコミュニケーションを促進させる空間づくりを取り入れる狙いについて、髙山さんは次のように説明する。 「クボタでは、個々の関係性を高めることを目的に上司と部下が定期的に1対1で話し合う“1on1(ワンオンワン)ミーティング”を行っています。実施場所はさまざまですが、新しい食堂もその活用先として選んでいただけるように、明るく開放的な雰囲気の空間にできればと考えています。また、クボタではグループ会社間や部門間を越えた交流を促進するために社内イベントを定期的に実施しています。こうしたクボタならではの取り組みも継続して実施ができるよう、レイアウトや什器にもこだわり、食堂が交流の起点となるよう工夫し弊社の価値観や事業を実感できるスペースを設けることで、従業員が会社への誇りを再認識できるような空間づくりをしていきます」と意気込みを語る。 創業の地・難波からうめきたへ。みどりと人々が交じるグラングリーン大阪のまちの特性を活かし、オープンイノベーションを推進させるクボタの新章が始まろうとしている。今後の展望について、吉川副社長はこう言葉をつなぐ。 「難波の本社にいた頃と同じ事をやっても仕方がありません。社内外のコミュニケーションを活性化することはもちろん、地域コミュニティやビジネスパートナーなど、ステークホルダーの方々と活発に交流する場を目指していきます。そして、コミュニケーションの活性化や交流の活発化によって、クボタの事業自体が成長することにつながっていくと期待しています」 写真:東谷幸一 文:脇本暁子