組織を超えた共創ハブで、世界に飛躍するスタートアップを支援
2024.08.30
2024.08.30
「一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)」は、前身である「うめきた2期みどりとイノベーションの融合拠点形成推進協議会」で約5年間活動してきた知見を活かして2022年9月に設立された。設立して2年が経ち、関西を起点にスタートアップを支援する機関と連携し積極的にコラボを重ねている。大阪・関西におけるスタートアップ・エコシステムを着実に構築している4団体のメンバーに話を聞いた。
政府が2022年11月に策定した「スタートアップ育成5か年計画」では、時価総額1000億円を超えるスタートアップのユニコーン企業を日本で将来的に100社創出し、スタートアップ企業を10万社創出するという目標を掲げている。京阪神エリアでも内閣府から「スタートアップ・エコシステム拠点都市」のグローバル拠点都市の選定を受け、関西発スタートアップを支援する環境の整備が進められている。2024年9月に先行まちびらきを迎えるグラングリーン大阪において、関西におけるイノベーション創出を加速させるために設立されたのが、「一般社団法人うめきた未来イノベーション機構」(以下U-FINO)だ。 「大阪府、大阪市、関西経済連合会、大阪商工会議所、そして、グラングリーン大阪開発事業者の官民が一体となってスタートアップを支援している点がU-FINOの最大の特徴です」と話すのは、U-FINOの渡邉秀斗さんだ。 「約45,000㎡の広さを誇るうめきた公園を中心とした新しいまちを拠点に公的機関や企業、大学、ベンチャーキャピタルなど関西のさまざまな支援のリソースをつなぎ合わせて、関西全体のイノベーション・エコシステムを強化していくことを目指しています」
関西全体のイノベーション・エコシステムを強化するとはどういうことなのか? その背景について、渡邉さんは次のように説明する。 「関西圏のビジネスには多様な地域と個性があります。たとえば京阪神を例に挙げると、京都は大学や研究機関など科学技術で社会を変えるディープテック領域に圧倒的なブランド力を持っています。東京に次ぐ国内第2位の経済規模があり、ものづくりを中心とする企業が集積する大阪や、医療産業都市を中心とした医療ヘルスケア領域に強みを持つ神戸と3都市それぞれ特長があります。すでに先行してさまざまな取り組みが進められていますが、まだまだポテンシャルがあると感じています。スタートアップを取り合うのではなく、領域やフェーズに応じて地域が有機的に連携し、それぞれの強みを活かしたエコシステムの構築に取り組む環境づくりこそがU-FINOの使命です」 次に、関西におけるスタートアップシーンの現状について、近畿経済産業局の増井浩行さんが語ってくれた。 「これまでスタートアップは東京に一極集中している状況でした。関西は資金調達金額も全国で約7%*と、全国における関西のGDPの割合(約16%)よりも少なく、各機関も独自に支援をしていました。「スタートアップ・エコシステム拠点都市」のグローバル拠点都市の選定や、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、関西イノベーションイニシアティブ(KSII)等の関西横断の枠組みやプロジェクトも立ち上がりはじめ、ようやく連携できる土壌が整いつつあり、ここからは横の連携を強め一体となってサポートしていきます」 *記載の数値は、INITIAL(initial.inc)が発表している「Japan Startup Finance」のデータをもとに、増井さんが算出した数値です。
U-FINOは関西のイノベーション支援機関と協力し、多くのイベントを開催している。大学・研究機関による体験型展示会と都市型カンファレンス「イノベーションストリーム KANSAI」もそのひとつで、同プログラムのなかで、近畿経済産業局主催で社会課題解決と経済成長の双方に寄与するインパクトスタートアップに関するトークセッションを開催した。 「関西ではまだまだイノベーションの創出につながるようなイベントの開催が少ないので、情報、人、技術などが集結する場は非常にありがたいですし、U-FINOのような機関が旗を振りグラングリーン大阪がイノベーション創出拠点になることは、一般の方々の関心が高く集客力もあり裾野が広がりそうです」と増井さんは期待を滲ませる。 関西には多くの優れた大学や研究機関が集積し、数多くの起業シーズが存在している。公益財団法人都市活力研究所が代表幹事を務める「関西イノベーションイニシアティブ(以下KSII)」は、関西エリアの30大学はじめとする大学発スタートアップを支援し、産学融合のイノベーション・エコシステムの形成を目指すプロジェクトだ。 「関西エリアには、特徴ある大学や研究機関が集積しています。それらアカデミアは相互的にアクセスが容易な距離感で近接しており、コミュニケーションがとりやすいことも、関西圏の大学発スタートアップの強みです。そのため、大学の先生や研究者がそのまま起業し、事業化にまで至るケースも少なくありません。ただ、そうスムーズにいかないケースもあり、起業後の事業経営を担う人材を確保することが課題となっています。また、大学発の革新的な技術に興味を持つ企業と繋ぎ、一緒に取り組んでいける仲間を増やすことにも取り組んでいます」と都市活力研究所の廣谷大地さんは大学発スタートアップが抱える課題をふまえた取り組みを語る。
U-FINOでは、関西圏のイノベーション関係のフラッグシップイベントを目指して「Ecosystem Link」というイベントシリーズを開催している。その中で、KSIIと連携して定期開催している「産学融合ミートアップ DEEPTECH CAMPUS」では、関西を代表する大学発スタートアップのプレゼンやトークセッションなど行い、大学発スタートアップの最前線の情報を発信し産学共創を推進している。 「現在は月1回の開催ですが、グラングリーン大阪のJAM BASEの開業後には、月に数回開催する予定です。この場には関西のみならず全国、海外からも訪れる方が多いと思いますし、関西発スタートアップをしっかり発信していきたいです。Ecosystem Linkという名前の通り、日本・世界のエコシステムを繋ぐ場にしていきたいと思います」と渡邉さんが意気込みを語ってくれた。
「情報を発信する拠点ができることは、海外の投資家に関西を知ってもらうきっかけづくりになる」と語るのは、スタートアップの海外展開を支援する独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)大阪本部の中西葉奈さんだ。 「2025年の大阪・関西万博開催に伴い、海外からスタートアップにおいて重要なキーパーソンが続々と来日しています。東京から大阪へ足を延ばすから参加するべき・見るべきイベントはあるか?と聞かれるのですが、紹介できるものがないと貴重な機会の損失につながります。JAM BASEやEcosystem Linkのような定期的に人とつながることのできる場があることは、海外展開を活性化させるための最初のフックになるのではと期待しています」
また、海外投資家から「関西はチャンスだ」という声をよく耳にするという。その真意について、次のように説明する。 「東京はチャンスが多すぎるがゆえに新しくファンド組成や投資をしても埋もれてしまうデメリットもあるが、大阪・関西であれば話題となり、支援機関の強力なサポートを享受することができるのが魅力的だと海外の投資家の方々はおっしゃいます。グローバル市場において、関西の優れたスタートアップ・エコシステムに関心を持っていただき、ディープテックという分野なら関西だと思ってもらえるように推進していきます」 その取り組みの一環として、ジェトロでは海外アクセラレーターとU-FINOと連携し医療・ヘルスケア領域の起業家・スタートアップの海外展開を支援する集中セッションを行っている。ほかにもU-FINOはさまざまな機関と連携し、ディープテックスタートアップをサポートするイベントを展開する予定だ。 組織や団体の垣根を越えて、さまざまな角度から関西におけるスタートアップ・エコシステムを着実に構築しているU-FINO。最後に、イノベーション創出支援の取り組みへの思いについて、渡邉さんが次のように語ってくれた。 「関西の支援機関の皆さんは関西を盛り上げたい、その先に日本を盛り上げていきたいという熱い志を持つ方々ばかりです。まもなくグラングリーン大阪が先行まちびらきを迎え、2025年には大阪・関西万博も開催されます。このタイミングを逃さず思いを結集して共に取り組んでいます。今後はU-FINOパートナー制度を設け、そうした支援機関の皆さんの熱い思いを繋げる役割をU-FINOが担っていくことができればと思います」と渡邉さん。 U-FINOが関西のイノベーションの共創ハブとなることで、支援者同士の横の繋がりが強化され、より強固なエコシステムが形成されていく。関西から世界へ飛躍するスタートアップが次々と巣立つ未来はもうすぐだ。 写真:東谷幸一 文:脇本暁子