まちへの愛着と誇りを育てていく、新時代のまちづくり

2025.03.17

2024年9月6日に先行まちびらきを迎えたグラングリーン大阪。JR大阪駅北側にある梅田貨物駅跡地を再開発したうめきた区域は、官民が周辺地域と一体となって進める大規模プロジェクトだ。グラングリーン大阪開発事業者JV9 社の代表企業を務める三菱地所に、次世代の新しい都市モデルとして世界に発信するグラングリーン大阪の全貌と、そのまちづくりについて話を聞いた。

大野郁夫さん/三菱地所株式会社(執行役常務)

JR大阪駅北側にある梅田貨物駅跡地を再開発が進むうめきたエリア。その立地から大阪最後の一等地とも呼ばれ、開発エリアの東側に位置する先行開発区域うめきた1期のグランフロント大阪は、2013年4月に開業した。昨年開業10周年を迎えたグランフロント大阪の成果を三菱地所の大野郁夫執行役常務は振り返る。 「最大の変化は人の流れが大きく変わったことです。うめきた1期は、当初12社が携わり、開発するにあたっては当時の経済状況もあり苦労もありましたが、何もなかった場所に新しい街をつくり、いかに人の集積を図るかということに開発事業者一同注力しました。敷地の制約上、グランフロント大阪は南北の直線上にオフィスや商業施設、イノベーション施設が並んでいますが、建物ができただけでは人の流れは変わりません。そこでどんな活動が行われているか、魅力あるコンテンツと新しい情報を継続的に発信して人々を惹きつける場所でありつづけることが非常に大事なことでした」

三菱地所に入社以来一貫して、丸の内をはじめとする様々なエリアでの都市開発事業を手がけてきた大野さん。「グラングリーン大阪の誕生は、大阪を世界水準の都市空間を持つ国際都市に引き上げるきっかけになると期待しています」

グランフロント大阪の中核施設ナレッジキャピタルでは、「知的創造・交流の場」として産業創出、文化発信、国際交流、人材育成の4つをミッションとして活動を続け10年間で累計イベント開催数は11,300回以上、海外からの視察や来訪者数は88カ国541団体、来場者数は累計約4,630万人と新たな賑わいの拠点となり、グランフロント大阪全体として累計来館者数は4.7億人以上を記録。いまでは大阪を代表するランドマークのひとつとなっている。

グランフロント大阪南館  多くの人々が訪れる大阪のランドマークとなっている

続くグラングリーン大阪は、オフィス、ホテル、中核機能施設、商業施設、住宅を有する複合開発事業だ。その中心にあるのが都市公園。敷地の半分にあたるおよそ4.5ヘクタールが「うめきた公園」として整備され、ターミナル駅直結の都市公園としては世界最大規模である。 「グラングリーン大阪でのまちづくりの要となるのが公園です。グランフロント大阪の開業後10年超が経過し、ますます社会の成熟化が進む中で、ウェルビーイングやサステナビリティ、環境への配慮など、人が暮らしていく上で新しい社会のニーズに応える重要性が増しています。主要ターミナルである大阪駅と直結した形で、これだけのみどりを有する公園を新しいまちの真ん中に据える。比類なきみどりをもつ公園を中心としたまちづくりは、そのひとつの解になりうるのではと考えています」

9月6日の先行まちびらきから3日間で約50万人の来場者数を記録

うめきた公園という都市空間における新しいオープンスペースの在り方を提示していくことについて、大野さんはこう続ける。 「うめきた公園では、みどりが持つ潤いや癒しという効果を体感いただくとともに、公園を使って様々なことにチャレンジできるような場を提供していきます。我々は50年間に及ぶ公園指定管理を受け、パークマネジメントとまち全体のエリアマネジメントを一体的に運営する組織『一般社団法人うめきたMMO』を設立しました。そしてまちの理念に共感頂ける方とともに活動を展開する協賛制度『MIDORIパートナー』を設け公園を一緒に育てていき、まちの魅力を高める運営をしていきます」 また、「うめきたの森」や「ステッププラザ」、「芝生広場」など、緑地空間が豊富なグラングリーン大阪では、ヒートアイランド現象の緩和や野鳥や昆虫が生息する新たな生態系が出現し、大阪城公園をはじめとする周辺の生態系地域とのグリーンネットワークの形成など、環境への貢献も期待されている。 「グラングリーン大阪のみどりが及ぼす環境への価値を認識し、一般の方々へわかりやすくアピールする目的で、日建設計と日建設計総合研究所によって策定されたのが5つの指標からなる『みどりのものさし』です。温室効果ガスの削減や樹木による空気の浄化など、5つの観点からみどりがもつ環境価値を可視化して情報発信しています」 主な植栽配置計画(北公園東西方向断面イメージ)。ランドフォームが生み出す多様な環境にそれぞれの特徴にふさわしい植栽計画がなされ、“大阪本来の豊かに潤った大地”をテーマに大阪の気候風土に根差した持続可能な環境づくりを目指している。 「みどり」と「イノベーション」の融合拠点をコンセプトに掲げているグラングリーン大阪では、公園内に配置されたキューブ型の施設「VS.」や、中核機能施設「JAM BASE(ジャムベース)」など至るところでイノベーションを創出する仕掛けが施されている。 「北街区の低層階に位置する「JAM BASE」では、新しい産業や新サービスをいかに創出していくかを目指しています。そのために、大阪府、大阪市、関西経済連合会、大阪商工会議所と民間業者が官民一体となって「一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)」を立ち上げ、情報・人・技術が集まりスタートアップの支援を強化するエコシステムのハブとして機能していく予定です」

JAM BASEの4層吹抜け会員制交流スペース。新たな価値の共創を目指す

公園内の施設はもちろん、オープンスペースでも来訪者や近隣の住民を対象としたイベントやワークショップの実施を予定しているほか、企業・研究機関などによる実証実験の場所としても有効活用されるなど、新しいサービスやライフスタイルを共創していく空間になっていくようだ。 先行まちびらきを迎え、グラングリーン大阪が目指す「"Osaka MIDORI LIFE"の創造」を実現するために、「みどり」と「イノベーション」の融合に向けた取り組みが本格始動していく。これかのまちづくりへの想いについて、大野さんは次のように語ってくれた。 「私たち三菱地所は『人を、想う力。街を、想う力。』とブランドスローガンにして人々が働き、学び、遊び、住まうといった生活やアクティビティといった営みを想像し、その舞台としての街はどう在ったらいいのかを考え続けてきました。時代とともに働き方や生活スタイルが変わり、まちの価値もまた変わっていくので、その変化を感じ取りながら新しいことに挑戦しまちづくりをしていく、それが都市開発の仕事です。しかし、私たちは街の舞台を整えることはできても、その街を育てていただくのは市民の皆さまです。うめきた公園、そしてグラングリーン大阪を世界に誇れるまちとして愛着を感じていただけるよう、シビックプライドを醸成していくことが何よりも大切なことだと感じています」 まちに対する誇りを育てていくこと、それがグラングリーン大阪を世界に誇れるグローバル都市として発展する糧となっていくのだ。