多様性を受け入れる「愛される」まちづくりを目指して

2020.12.21

テーマ:ランドスケープ

世界有数のターミナルエリアである大阪梅田エリア。その中央に位置するJR大阪駅の北側にあった梅田貨物ヤード跡地を大規模複合開発するプロジェクトが「うめきた」だ。2013年に先行開発区域のグランフロント大阪はすでに開業しているが、それに続く「うめきた2期地区開発プロジェクト」は2024年夏に先行まちびらきをする予定だ。約91,000㎡の敷地全体のうち約半分の約45,000㎡が公園という緑豊かな空間ができるという。

広大な都市公園を中心に、北街区、南街区と分けられる。都市公園では大規模なイベントや四季折々のアクティビティなどを行うことができる。

芝生広場は、休日のくつろぎや遊びの場、平日のオフィスワーカーたちの憩いの場としても重宝。新しいサービスの提供やイベントの試みなど、都心にいながら癒やしと活力を得られる場所として、幅広い利用を想定している。

まちづくりのテーマは”「みどり」と「イノベーション」の融合拠点”。どのような構想なのか、ランドスケープを担当する3人に話を聞いた。 「大都市の公園というとニューヨークのセントラルパークなど世界にいくつかありますが、超都心型立地の公園で、憩いの場としてだけでなく、オフィスや商業なども共存し経済活動が両立している公園というのは世界にも類を見ないものです。私たちは市民の生活を豊かにすることと、大阪の産業を盛り上げていきたいという思いもあるので、その意味でも未来のひらめきと創造につながる“「みどり」×「イノベーション」の融合”を目指しています」と阪急阪神不動産の栗山直也さんは語る。

左から、栗山直也さん/阪急阪神不動産株式会社(開発事業本部 うめきた事業部 うめきたグループ 課長補佐)、村上尚さん/株式会社大林組(大阪本店 建築事業部 プロジェクト推進第一部 課長)、佐々木一洋さん/オリックス不動産株式会社(うめきた開発事業部 部長)

うめきた2期の模型と設計図。ビルの配置から池の形まで、2024年に向けてまだまだ多くの可能性を秘めて開発中。プロジェクトに関わるさまざまな人たちの頭の中にある知識や経験、イメージ、希望がどのような形になるのか。

うめきた2期地区のまちづくりで最も重視しているのが“ランドスケープ”だ。 ランドスケープとは、人々の暮らしや活動、景色、環境など、さまざまな視点から街全体をデザインする手法で、建築物に付随する外構エリアのデザインだけではない。 「日本では建築家と比べまだ認知度が低いですが、ランドスケープデザイナーはビルなどの建築物ありきではなく、周辺とのつながりや建物と屋外の関係を含めた、まち全体のグランドデザインの視点で考えます」と大林組の村上尚さんが話す。 ランドスケープデザインを担当するのはアメリカ・シアトルを拠点に活動する、キャサリン・グスタフソン氏ら3人が代表を務める世界的なランドスケープ建築集団「GGN(グスタフソン・ガスリー・ニコル)」だ。日本好きでもあるキャサリンさんだが、意外にも今回のうめきたが日本初のプロジェクトとなる。そのまちの持つ歴史や風土、土地の構造からランドスケープの解を導き出すGGN。今回も大阪がかつて多くの河川が流れる水都として繁栄してきた歴史や風土を踏まえ、本来のうめきたの大地や大阪の季節感を感じさせる景色などをつくり出す予定だ。 「日本に造詣が深く、日本人スタッフも在籍しているというところもGGNに依頼した理由のひとつです。海外の最新事業も手がけつつ、日本の文化や日本人的な感覚や繊細さを熟知していて、それらをうまく融合してもらえると思っています」と村上さん。

1999年に、女性ランドスケープアーキテクトのジェニファー・ガスリー(左)、キャサリン・グスタフソン(中)、シャノン・ニコール(右)の3名がシアトルで設立したランドスケープデザイン事務所。代表作に、アメリカ・シカゴの「ミレニアム・パーク」内にある「ルリー・ガーデン」、ワシントンD.C.の「国立アフリカン・アメリカン歴史文化博物館」のランドスケープなど。© Julie Harmsenlow

GGNによる「OSAKA MIDORI」ストーリーのイメージデッサンのひとつ。緑の少ない大阪だからこそ、斬新でチャレンジングな試みになる。GGNならではの観点で日本のまちや建築についての特徴などもよく調べられている。

コンペ時のスタディ案。敷地全体と周辺地区を俯瞰で解析し、人々の動線や空間的つながり、土地の起伏など、さまざまな視点から検討する。

「都会の真ん中に位置しますが、野鳥や昆虫などの自然環境にも配慮しています。害虫として捉えられる蚊でさえも、排除するのではなく発生しにくいような水流をつくるというふうに、もともとある自然と共存を目指して設計しています」とオリックス不動産の佐々木一洋さん。 公園には、散歩に訪れる人や地域の住民、近隣のオフィスワーカーなどさまざまな人々が活用できるように、四季が感じられるうめきたの森や、1万人規模が集うことのできるリフレクション広場、カフェなどを設けたくつろぎのエリアなど、多様なアクティビティに対応する空間が創出される。そこで新しいサービスの実証実験やアイデアを試す、イノベーティブな場所にもなるという。

「ポートランドの道路活用イベントでは、自発的に市民が巨大ジェンガを楽しんでいました。世代問わずいろいろな人を巻き込んでコミュニケーションが生まれるのが良いですよね。我々日本人はジェンガを積み上げるのが上手かったみたいで、現地の子どもたちに、こいつら凄いぞと絶賛されました(笑)」と村上さん。

「散策したり、カフェやレストランでくつろいだり、イベントに参加したり……多様な人たちが集まり、一人ひとりのQOL(Quality of Life)を叶える公園にしたい」と栗山さん。

「参考にしたのはシカゴのミレニアムパークやニューヨークのブライアントパーク。GGNはミレニアムパークにあるルリー・ガーデンのデザインにも携わっていますね。このようなシビック・プライドを大事にしていく“市民に愛される公園”を作りたい」と佐々木さん。

「先行開発区域のグランフロント大阪にはナレッジキャピタルという知の集積拠点があります。さらに2期にもイノベーション創出を目指す中核施設が整備され、今後はそれらと新しくできる公園やオフィス、ホテルなどと複合的に新たな活動が展開されていくことを目指しています。また大阪ならではの世話好きだったりおせっかいだったりするメンタリティも活かして、国籍や性別、年齢問わず、いろんな人を積極的に受け入れるまちにしていきたい。多様なものが集まってこそ独創的なアイデアが生まれると思っているので、新しい公園の使い方を私たちが提案していき、それが世界のスタンダードになるように発信していきたい」と話す佐々木さん。その全貌が明らかになるのが待ち遠しい。

設計図を見ながら、それぞれの理想のまちを語る3人。ロボットやドローンを使ったサービスの実現など、夢の可能性は無限大だ。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子