市民とともに、イノベーションに取り組むまちづくり

2021.03.12

テーマ:市民参加

うめきた2期のまちづくりのコンセプトとして最も根幹にあるのが「みどりとイノベ-ションの融合拠点」である。緑豊かな都市公園に集う市民との接点を生かした新しいまちづくりとして、多様な交わりの中から、さまざまな社会課題・技術・アイデアを反映した新しい体験・製品・サービスなどの新規事業の創出を支援する。加えて、知的人材の育成、国際交流にも積極的に取り組むなど、多様なアプローチからイノベーション創出を試みようとしている。また、隣接するグランフロント大阪の知的創造拠点ナレッジキャピタルとも連携して新たな施設や活動の場を設け、イノベーションの起点として、ビジネスだけでなく、人々のライフスタイル向上にも大きく貢献していく予定だ。その新しいまちづくりに向けた取り組みのひとつとして注目なのが、事業者や関連企業だけでなく、起業家や研究者、地域に暮らす人や街を訪れる人など、さまざまな人たちの意見や視点を取り入れていく、市民参加型のまちづくりだ。 「以前、北欧を視察した時に驚きだったのが、一般市民の方々がまちづくりや社会課題の解決に向けて、当たり前のように取り組んでいる様子でした。たとえばデンマークでは、会社員は残業せずに定時で帰ることが多く、仕事を終えてから、皆でタウンミーティングで議論するという光景が日常的に繰り広げられています。その背景にはサステナブルやローカルを尊重する思想や、社会に貢献しようとする姿勢が、企業も市民も共通の“軸”としてあるからです。そうした市民参加型のまちづくりを参考に、大阪らしさや大阪の良さを生かしながら、うめきた2期ならではのリビングラボや市民参加ができるような仕組みをつくっていきたいと考えています」と大林組の平井陽さんが語る。

平井陽さん/株式会社大林組(大阪本店 建築事業部 プロジェクト推進第二部 副課長)

芦田枝里さん/オリックス不動産株式会社(うめきた開発事業部 主任)

リビングラボとは、新しいものづくりやサービスの開発にあたり、市民が参加して共創するイノベーション創出のアプローチ手法のこと。1990年代にアメリカで誕生し、スウェーデンやデンマークなどの北欧で発展してきた。 オリックス不動産の芦田枝里さんが続ける。「うめきた2期でもすでに市民参加型のワークショップを行っています。企業やアカデミアから問題提起されたテーマごとに、5~6人ずつのチームを組んで意見を出し合いました。日本企業が持つ専門的な知見や技術などのポテンシャルは素晴らしく、市民からのまったく新しい視点や、意外にも思えるようなアイデアなどが加わることによって、まちづくりにおける可能性はさらに発展していくのではないかと思っています」

堀沙樹さん/株式会社竹中工務店(大阪駅北地区事業本部 課長)

「ワークショップには、私自身もひとりの市民として参加しました。企業やアカデミアから問題提起されたテーマは、最初は難しいなと感じるところもありましたが、ファシリテーターがほんの少しテーマを置き換えただけで、意見やアイデアが出やすくなったのです。そして、チームの皆さまと議論を重ねるうちに、自分だけでは思いつかない素敵な案がまとまりました。企業やアカデミア、市民、異なる立場の人たちが多様な視点を持ち寄ることはとても有効だと感じました。今後はプロジェクトをつくり上げていく過程で、垣根を越えたつながりや偶然の出会いなど、リアルだからこそもたらせる価値も追求していきたいと思います」。竹中工務店の堀沙樹さんは話す。

田辺莉奈さん/阪急阪神不動産株式会社(開発事業本部 うめきた事業部 うめきたグループ)

「社会課題や困りごとに対してもこれまで固執してしまっていた考え方ではなく、ワークショップによって新たな視点がもたらされました。新しいサービスや製品が生まれ、人々の暮らしが豊かになり、企業にとっても市民にとっても良い結果になるというイノベーションが起きる。うめきた2期にそうした仕組みをつくることで、多様な人材が自然と集まり、にぎわいが生まれていくのではないかと思っています。そういったまちづくりを、市民の方々と一緒にやっていければと考えています」と阪急阪神不動産の田辺莉奈さん。 「まちづくりの観点から市民参加をどうサポートしていくのかも課題です。サポートの加減が難しく、きっちり計画しすぎたつくり込まれたものだと、参加しづらく面白さも半減します。とはいえまったく自由にどうぞというのも難しい。市民の皆さんが楽しんで参加できるように、サポートの補助線をどう引いていくのか、そうした点も考慮しながら取り組んでいます」と平井さん。「今後はワークショップだけではなく、講演会やイベントを予定したり、市民が参加する社会実験なども検討したりしています。オンラインで海外在住の方にも参加してもらって外国の事例も参考にするなど、多方面から参加していただきたいですね。そこはオープンマインドな気質の大阪人なので、さまざまな人の意見を受け入れる土壌がありますから」と芦田さん。 街を建設するというハード面だけではなく、街の暮らしやすさや楽しみ方の可能性を皆でつくり上げていくというソフト面での新しいまちづくりの手法には、想像以上の未来を生み出す可能性と期待を感じられた。

それぞれ会社が違う4人だが、終始和気あいあい。さまざまな会社や業種の人々が集まり、チームとなって課題に取り組んでいるからこそ、新しい発見や気付きがあるという。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子