1000日間限定の実証実験空間で、心地よく滞在したくなる場を考える

2021.06.15

テーマ:うめきた外庭SQUARE

グランフロント大阪から梅田スカイビルへ向かう地下道を出たところに、緑鮮やかな芝生が一面に広がるスペースがあるのをご存知だろうか。2020年7月4日から2023年3月31 日までの1000日間限定で開設している屋外型の実証実験空間“うめきた外庭SQUARE”だ。2024年夏に先行まちびらきをする、うめきた2期の都市公園を先進的かつ魅力的なパークマネジメント・エリアマネジメントをするために、さまざまなトライアルが行われている。

敷地内に仮設の管理事務所やトイレが設置されている。ふかふかの芝生に、パラソルやソファも常設してあり、屋外で快適に過ごせる環境が整っている。

うめきた外庭SQUAREは、歩道を挟んで南北に分かれており、天然芝が広がるサウスラボと人工芝が整備されたノースラボからなる。地域に開かれたオープンな場として大淀や中津など近隣地域と提携したイベントを開催。その第一弾が月に一度開催する「大淀朝マルシェ」だ。クラフトビールやフードの販売、フラワーショップ、画材屋、雑貨屋など近隣の店が出店している。そのほかにも、2020年12月には大淀にあるロウソクメーカーのカメヤマとコラボし、コロナ禍だからこそ明るい話題を届けたいと、LEDキャンドルを使用したみどりのイルミネーションを開催した。今後も地元企業などと連携してさまざまな取り組みを実施する予定だ。

毎月第3日曜日に開催される「大淀朝マルシェ」。地元で人気のフラワーショップやクラフトビールなど、さまざまな店舗が出店している。

大淀にあるロウソクメーカー、カメヤマとのコラボによるみどりのイルミネーション。芝生損傷や火傷の心配がないLEDキャンドルを使用。本物のローソクのような灯りは訪れた人々の心を和ませた。

心地よく滞在したくなる場とは、まず、ユーザーが愛着を持つ空間であることが不可欠だ。そのために市民の主体的な活動をサポートする「外庭倶楽部」が今春始動した。これはうめきた2期で実現をめざす“Osaka MIDORI LIFE”を支える市民主体活動のトライアルであり、うめきた外庭SQUAREを一人ひとりに“自分の居場所”として使いこなしてもらおうという取り組みだ。3月の土曜日にはそのひとつとして音楽プログラム「Niwa no Ne ~庭音~」を3週連続で開催、ジャズサックスプレーヤーやバイオリニスト、チェリストなどプロのミュージシャンらが演奏した。500人程度が来場し、エリア内に出店しているキッチンカーで買って食べたり飲んだり、芝生の上で寝そべるなど思い思いに過ごした。 また、イベントを開催していない時でも快適に楽しく滞在できる仕掛けが満載。屋外の作業に使える椅子や机、のんびり過ごせるソファなどの設備に、ランチタイムになるとさまざまな出店者によるキッチンカーが食事や飲み物の販売をしている。大きなジェンガや卓球といったアクティビティツールの無料貸し出しや、ユーザーたちが共同で育てるガーデンなどもあり、アクティブに活用する工夫が施されている。

「Niwa no Ne ~庭音~」コンサートでの一コマ。サウスラボのウッドデッキ上で、プロのミュージシャンによる演奏を3週にわたって無料で楽しめた。ポップスのほかクラシックや映画音楽など幅広い層が楽しめる曲構成で盛況のうちに終えた。

欧米のストリートで見かける大きなジェンガ。うめきた外庭SQUAREではサイコロを振って出た目の色を抜くというルールで楽しめる。子どもだけでなく大人も夢中になり、自然と交流が生まれる。

うめきた外庭SQUAREのもうひとつの取り組みは“「みどり」のリビングラボ”*1をコンセプトに、地域や行政、民間企業とともに未来のまちづくりのための実証トライアルである。昨年10月には運営パートナーである西尾レントオールが、本社機能の一部を一時的に移転し、自社の商材を活用したテントやトレーラーボックスで通常業務を行う実証実験「MIDORIオフィス」を実施した。そこでは自然災害などの緊急事態を想定した、仮設の通信環境下でのBCP*2対策や働く人にとってどのような影響があるかという実証実験が行われ、注目を集めた。

西尾レントオール社製の大きなドーム型のテントをエリア内に設置。新しい働き方や新しいオフィス環境、災害時のBCP*2対策の実証実験が行われた。

うめきた外庭SQUAREでは、都市公園の先進的な管理運営を見据え、AIやロボットなども試験的に活用している。コロナ禍の時勢に合わせた対応として、AIカメラを設置し、スマートフォンからリアルタイムに混雑状況が確認できる。ほかには芝生の管理にロボット芝刈り機を導入し業務の効率化を図っている。一方で、芝生は気象条件、人や物の踏圧によって大きく影響を受けるため、熟練した管理者の手を借りなければ、常に美しい状態を維持するのは難しい。芝生管理におけるコスト圧縮と高品質な維持管理の両立、さらに高層ビルに隣接した立地からビル風対策など、快適に過ごす環境に向けてまだまだ解決すべき課題は多いようだ。

天然芝の上を縦横無尽に走るロボット芝刈り機。芝の長さは自由に設定できる。また、天然芝の生育に効果的な管理手法の実証も行っている。

行きたくなる、滞在したくなる場にするために、日常の居場所づくり、飲食等のサービス提供、イベントの開催、外庭倶楽部など、さまざまな取り組みを果敢にチャレンジしている、うめきた外庭SQUARE。“外庭”という名前は、各家庭の庭ではなく外に開けたオープンな場であるものの、第2の庭として市民自らが育ててほしいという願いを込めて名付けられた。これまでにない次世代の新しいオープンスペースのあり方、その萌芽がうめきた外庭SQUAREで見つけられるにちがいない。 *1 リビングラボ:ものづくりやサービス開発において、市民やユーザーを長期的に巻き込みながら生活者のニーズを拾い上げ、そのニーズに沿ってサービスを共創する手法のこと。 *2 BCP:事業継続計画(Business Continuity Plan)の略称。自然災害やテロ、システム障害といった緊急事態に遭遇した場合に、業務の継続あるいは早期復旧を可能とする方策を用意しておく計画のこと。

文:脇本暁子