緑あふれる街で、働くだけではない、多様な体験ができる次世代のオフィス

2022.03.30

テーマ:オフィス

コロナ禍で、多くの企業が従来の働き方から多様な働き方へと転換してきた。それにともない、オフィスのあり方も問われている。2024年に先行まちびらきをするうめきた2期では、緑溢れる都市公園に隣接した南街区賃貸棟に総貸室面積約33,000坪のオフィスができるという。オフィスの企画・設計を手がける三菱地所と三菱地所設計に話を聞くと、これからの時代の新しいオフィス像が見えてきた。

左から、小西隆文さん/株式会社 三菱地所設計(うめきた2期プロジェクト 室 ユニットリーダー副室長)、和田毬奈さん/三菱地所株式会社(うめきた開発推進室)、北川安寿香さん/三菱地所株式会社(開発第2ユニット 副主事)

西日本最大のターミナル駅前に出現する新しい街・うめきた2期。南街区のオフィスを含む複合ビルは、駅に直結しアクセスの良さが魅力的だ。 「2023年春にJR西日本のうめきた(大阪)地下駅が開業予定で、改札口からオフィスロビーまでは徒歩2分でアクセスできます。駅には関空特急はるかが乗り入れ、関西国際空港からダイレクトにアクセスでき国際的なビジネス拠点としてふさわしい立地です」と三菱地所の和田毬奈さんが言う。

「リリースを発表するたびに新聞やテレビなどたくさんの媒体からお問い合わせをいただき、とても期待されているプロジェクトだと身が引き締まる思いです」と三菱地所の和田毬奈さん。

新型コロナウイルスの影響で、これまで当たり前とされていた“会社で働くこと”が一変することになったオフィス環境について、三菱地所の北川安寿香さんはこう語る。 「これまで毎朝決まった時間に出社し、決められた席で仕事をするのが当たり前だったオフィス環境が、コロナ禍を機にテレワーク制度を導入する企業も多くなってきました」。であれば「必ずしもオフィスはなくてもいいのでは?」という声も聞かれるが「それでもオフィスは必要」と言い切る。 「たしかにテレワークは便利でメリットも多くありますが、コロナ禍でテレワークが強制的に進められたことで、ネガティブな面も浮き彫りになりました。たとえば、コミュニケーションの欠如によって、新人教育や企業文化の形成などの対面でしかできない事が難しくなります。一人での作業では思いつかないようなアイディアも、コミュニケーションの中で生み出されることが多いと思います。いわばオフィスは知識やアイディアを共有、創造し、伝承する場でもあります。」とうめきた2期のオフィスにも人と人がコミュニケーションがしやすい空間をつくることを重要視しているという。 「西棟オフィスは6階から27階で約27,000坪、東棟オフィスは5階から17階で約6,000坪あります。とくに西棟オフィスは1フロアが1,240坪と大阪でも最大級の広さを誇ります。これまでビル3~4フロアに分かれて使っていた企業も1フロアに集約して上下階の行き来がなくなることで、今までフロアで分断されていた部署間の繋がりが生まれたり、フロア効率が良くなることでフリーアドレス等の自由なレイアウトを実現しやすくなるのでは」と和田さんが続ける。「また西棟4階には就業者専用のダイニングラウンジやワークプレイスも用意する予定で、自社のオフィス内に留まらない、会社を超えたコミュニケーションが生まれるような仕掛けも考えています」

「ターミナル駅前にこれほど大きな公園とオフィスや商業、ホテルなどの様々な用途が集まった一体開発は世界的にも希少なプロジェクトだと思います。そんなプロジェクトに参画できるのは非常に光栄です。日本発のオフィスの代表例になると期待しています」と三菱地所の北川安寿香さん。

「JR大阪駅前の一等地に緑を中心とした開発をするという決断は素晴らしいと思います。駅前はビルが集積するものだという固定概念を変えました。世界中から視察に訪れることを楽しみにしています」と三菱地所設計の小西隆文さん。

「みどりとイノベ-ションの融合拠点」がまちづくりのコンセプトであるうめきた2期は、総敷地面積約91,000㎡の半分を都市公園が占めており、オフィスでもみどりは重要な要素となる。とくに象徴的なのがオフィスロビーラウンジだ。 「2階にあるオフィスロビーラウンジから公園の緑を見下ろせますが、さらにTRAYという植栽を設置します。いわば公園の飛び地のような自然を感じられる場で、そこにはスツールやベンチがあったり公園を眺められるカウンターがあったりと常に公園との関係を意識できるような場になっています」とこれまで30年近くオフィスビルの設計に関わってきた三菱地所設計の小西隆文さんが話す。 「屋内環境にもなるべく自然素材を選択し緑を取り込んでいこうという考え方でデザインしています。東棟と西棟は規模やターゲットにするテナント層が違うので、それぞれデザインのコンセプトにも変化をつけています。まず規模の小さい東棟は”ナチュラルオーセンティック”をテーマにホスピタリティの高いコンパクトで落ち着きと気品のある空間に。西棟は非常に規模が大きく多様なテナントが見込まれるので、”ナチュラルコンフォート”をベースにスーツでなくても似合うようなデザイン展開にしています」 「光もとても大事な要素」と小西さんは続ける。「エントランス部分は間接照明を採用します。従来、エントランスはオンとオフを切り替える役割があったので、明るい光で直接照らすことが多かったのですが、働き方が多様化しているなかでオンとオフと明確に切り替える必要性はありません。」

西棟オフィスロビーラウンジのイメージ。公園の緑をそのまま取り込んだ飛び地のようなTRAYに、ベンチやスツールが設置され人々が憩う空間ができる。

西棟4階ラウンジに隣接するテラスのイメージ。テラスの広さは約700㎡あり、ヨガなどのイベントができる人工芝エリアや飲食やソトワークが可能なデッキエリアがある。

また働く場所を屋内だけに限定するのでなく、屋外で作業することも視野に入れて環境を整備していく。「西棟4階に設置する就業者用ラウンジはテラスと一体になっており、テラスで公園を見下ろしながら仕事をすることもできます。また、公園内にコンセントやWi-Fi環境を整備するなど、屋外でも快適に作業や会議ができるような取り組みも検討しています」と和田さんは公園での新しい働き方の可能性について教えてくれた。 「うめきた2期のオフィスは、働きにくる場だけでない、様々な用途が集まっているのが最大のメリットだと考えています」と北川さんは言う。「コロナ禍で働き方が大きく変わってきたからこそ、出社したいと思えるオフィスが求められています。自分のオフィスの自席に固定された働き方だけでなく、公園を見下ろすテラスで働いたり、気分転換に公園内を散歩したり、仕事を早めに終わらせて都市型スパでリラックスしてから帰宅するといった夢のような1日も実現可能です。ホテルやスパ、商業施設、そして公園が一体でそこにあるからこそ実現できる働き方ではないでしょうか。」 小西さんは2020年以降の社会変化は大きく4点あり、企業がオフィスに求めるものも変化してきたと指摘する。「ひとつはポストコロナの対応、SDGs、火災や地震など単独の災害ではなくそれらが重なる複合災害の想定、そしてワークプレイスの変化です」と挙げる。テレワークが進み、コミュニケーションの場としてオフィスそのものが変容していく。ポストコロナの新時代の働き方ができるオフィスは、世界に発信するイノベーション拠点として注目を集めるに違いない。

撮影:蛭子真 文:脇本暁子