公園のデザインを通して、大阪の未来を担う公園とは
2022.10.13
2022.10.13
2024年夏に先行まちびらきをするうめきた2期 。大阪駅北で開発が進む同敷地内の半分(約45,000㎡)を占める都市公園のデザインを手がけるのは、世界で活躍するランドスケープデザイン事務所「GGN」と日建設計だ。その両社とプロジェクトを推進する事業者の1社である阪急阪神不動産に、「みどり」が織りなす壮大な都市公園の全容を聞いた。
都市公園のリードデザインを手がけるGGNの鈴木マキエさんは、リードデザイナーのキャサリン・グスタフソンさんと大阪の街を視察した時のことをこう振り返る。 「アーケード街で商売をする方々の活気を見て、大阪はユニークな街だという印象をキャサリンは抱いていました。また、大阪の都市の歴史を調べるにつれて、より商人の存在の大きさを感じたようです。浪華の八百八橋と呼ばれていたように、町人自らが多くの橋を架けていたバイタリティーなどは、現在でもその名残を感じ取ることができました」 その土地が持つ歴史や文化、地形や生態系などを徹底的にリサーチして読み解き、その土地に最も適切なデザインを導き出すGGNは、都市公園のデザインイメージを作り上げるのにあたって、とりわけ大阪の水の存在に惹かれたという。 「水の都と呼ばれていたように、大阪には多様な表情を見せる淀川であったり、運河の名残のある福島区であったりと、現代でも水の存在を感じとれる遺構をあちこちで見つけることができます。うめきた2期の土地も菅原道真公が左遷される際に小舟を停めて立ち寄った 綱敷天神社が近くにあるように水との関係性が深いエリアといえます。こうした理由から、うめきた2期のデザイン設計をする上で“大阪本来の豊かに潤った大地”というテーマを提案しました」
約45,000㎡の都市公園は大阪駅北一号線によって南北に分けられているが、公園をデザインするにあたり、鈴木さんは分断された印象を取り除くのに苦労したという。 「道路によって南北に分かれた公園を一体的にデザインするというのは、コンペティション当初からの課題でした。その解決策のひとつとなったのが、南北をまたぐようにうねるランドフォームです。南公園はグランフロント大阪やうめきた広場、JR大阪駅に向けて開かれるように、一方で北公園は梅田スカイビル側に開く地形にして周辺地域とのつながりも強化するようにしました。さらに、南北に長いけれども東西はすぐ見渡せてしまう公園の敷地において、スケールを小さく感じさせないよう立体的なつくりにしています。向こう側が見えないことによって、歩行者の想像力で空間を広く感じさせるような仕掛けです」
公園には北にうめきたの森、南にリフレクション広場というメインとなる広場が2つ誕生する予定だが、ステッププラザという道路そのものを広場として捉えた空間も誕生するという。 「道路を“公園を切断してしまう存在”と扱うのではなく、道路自体を広場空間の一部としてとらえてみようと考えたのがステッププラザです。斜面が階段状になっていて、すり鉢状のスペースは反対側をステージのように見立てていて、イベント会場として使用することもできます」 また、“大阪本来の豊かに潤った大地”というコンセプトを表すように、うめきたの森には憩いの池や滝などの水景も点在する。 「北公園の水景は元々の地形にインスピレーションを受けデザインしました。水をふんだんに使えるところでは存分に使いますが、そうできないところでも水辺を思い起こさせる植物を配置して、一見した時に水を感じられるような植栽をデザインしています」
都市公園のデザイン設計は、一帯の形づくりだけにとどまらず、園内を彩る植栽においても創意工夫を施している。GGNとともに都市公園の設計を担う日建設計の平山友子さんは、緑が少ないといわれる大阪に日本らしさ、大阪らしさ、うめきたらしさを感じることができる公園が誕生すると語る。 「公園内には丘や水辺など多様な環境がありますので、それぞれの特徴を十分に生かした植栽計画としています。“大阪本来の豊かに潤った大地”というコンセプトを実現するにあたり、淀川からの繋がりを想起させるエノキやムクノキといった水辺の植栽をはじめ、上町台地や大阪近郊の丘陵地に生育する里山植生も取り入れています。南公園のエントリーガーデンには、シャクナゲやアジサイ、ツツジなど日本で古来より親しまれている花類を繊細な配色となるよう配置し、一年中いつ来園しても四季折々の美しさが感じられるように計画しています。また都心の公園ということもあり、周囲には高層建築物が隣接しますので、それらが植物の生育環境にどう影響するのか、例えば一年を通した日照条件や風環境の変化などをシュミレーションし、計画に反映しています」 大阪本来の地形に由来した植栽だけでなく、いつ来園しても日本の四季を感じ取れる草花の繊細な構成や、都心の公園ならではの科学的な根拠に基づいた植栽設計など、比類なきみどりを備えるための工夫が満載となっている。さらに注力しているのが、うめきた2期の都市公園を桜の名所にする計画だ。 「もうひとつの目玉となるのが、大阪の桜の新名所をつくる計画です。この公園の大きな特徴であるランドフォームを活かして南北の公園をつなぐ桜の丘を計画しています。桜というとソメイヨシノのイメージが強いと思いますが、今回はヤマザクラ、エドヒガン、オオシマザクラなど多様な樹種を導入し、それぞれが持つ花色の濃淡の美しさが楽しめるよう計画しています」
また、都市公園の設計において、グリーンインフラと生物多様性への配慮も重要な視座のひとつだ。平山さんは、公園内のグリーンインフラへの取り組みをこう説明する。 「地下水位が高いエリアではありますが、できるだけ公園内で水資源を循環させることを目指して計画しました。北公園では雨水を徐々に地中へ浸透させる砕石貯留槽や浸透トレンチを導入、南公園の大きな芝生広場には透水、保水機能をもつ植栽基盤を用いています。また、南北公園ともに一部の雨水を貯留し植栽への潅水用水として再利用する計画も導入しています。できるだけ公園域外への雨水流出を抑えることで内水氾濫抑制に寄与するとともに、上水利用を低減できるよう計画しています。もちろん、植栽による緑陰、水景などの蒸発散による微気象調整効果によって都心にクールスポットが創出されることにもなります」 さらに都市公園の存在は、大阪都心部の生態系ネットワークを繋ぐ重要なポイントになると平山さんは続ける。 「大阪城公園からは5km圏内ですし、北に位置する淀川からも約1km、すぐ隣には新梅田シティの新・里山があります。それらをコネクトする場所にうめきた2期の公園が位置しているので、緑が少ない大阪の中でも生態系を繋いでいくための新しい拠点になることを期待しています。そのために淀川や大阪城公園などで現存している植物や生き物の調査を行い、うめきたにどんな虫や鳥が飛来してくるかという目標種を設定し、具体的な植栽計画へと反映しています。また飛来してくる鳥のために夜間の照明計画にも配慮をするなど人の利用と生き物の生育環境のバランスを両立させ、生態系ネットワークの一拠点として機能するような場所になるようにしています。公園が完成してからもモニタリングをしながら継続して取り組んでいきたいですねと事業者さんともお話しています」
そうした野鳥や虫が集う緑溢れる公園にプラスαの機能を加えていくのが公園施設の役割だ。公園の利活用について、うめきた2期に携わる阪急阪神不動産の姜さんは公園内に設けた施設についてこのように説明する。 「公園内には、大きく分けて3つの機能をもつ施設があります。ひとつは『にぎわい機能』を象徴するSANAA が設計した全長約120mの大屋根施設です。大屋根の下のイベントスペースでは、一般的な公共公園ではなかなか実現できない商業イベントや音楽フェスなどにも対応することが可能です。ふたつめは、安藤忠雄さんが設計監修をされたネクストイノベーションミュージアムなど、『イノベーション機能』を持たせた施設です。公園というさまざまな人が訪れる開放的な空間に設置することで、企業や研究機関などが一般の人と接点をもちイノベーションが生まれやすくなるのではないかと期待しています」 そして最後のひとつは『飲食機能』を持つ施設だ。公園の緑に包まれた飲食施設を点在させるという。「緑に囲まれた空間で食事をしたりカフェでくつろぐ時間は、公園で過ごす時間をより豊かにしてくれます。公園内には多様な場所があるので、公園を広く見渡せる入り口付近にカフェを設置したり、滝を眺めながら食事できるレストランであったり、その場所の特性に応じた飲食機能を計画しています」
文字通り、総力を結集してつくり上げていくうめきた2期の都市公園は、2024年夏に先行開園をむかえる。来る約2年後を見据えて、鈴木さんは都市公園に対する思いを語ってくれた。 「キャサリンがよく言っているのですが、どんな公園でもスタートは生まれたての公園、それが本物の公園になっていくには使い手が育てていく必要があると。地元の人たちが自分の空間だと愛している公園は、必ず外から訪れる人たちにも伝わっていきます」 本物の公園とは、大阪の人が誇りを持ち真に愛される存在であること。みどりとイノベーションを世界へ発信していく類いまれな公園の歩みはいま始まろうとしている。
写真:内藤貞保 文:脇本暁子