公園と店舗、人と人をつなぐデザインのチカラ
2024.02.06
2024.02.06
グラングリーン大阪の南街区賃貸棟は関西国際空港へ直結するJR「大阪駅(うめきたエリア)」に隣接する建物だ。国内外から多くの人が行き交うこの南街区賃貸棟で、4フロアからなる商業施設の内装を手がけた乃村工藝社の出口智彦さんと日野寿一さん、開発事業者である阪急阪神不動産の米田宇志さんに設計の経緯を伺った。
南街区賃貸棟に誕生する地下1階から3階までの商業施設の内装を担当した乃村工藝社。内装デザインで表現したのは、グラングリーン大阪におけるまちづくりの目標、「みどり」と「イノベーション」の融合だと米田さんは言う。「グラングリーン大阪の最大の特徴は、まちの中心に位置する約4.5ヘクタールの都市公園です。建築においてもランドスケープを重視しており、地形そのものからつくり上げる今回のプロジェクトにおいて、商業施設の共用部分でみどりとの一体感を生かした内装デザインを乃村工藝社さんに期待しました」
乃村工藝社が提案した内装デザインのコンセプトは「Sense of Park」。本質的にその土地にある魅力を用いて、多様なライフスタイルが集う公園独自の空間を表現するのだという。「プロジェクトを進めるにあたっては、施設をつくって終わるのではなく、公園とともに育っていく場所にしたかった。公園の緑を魅力的に見せられるように、この場所独自の環境づくりを提案しました」。商業エリア全体の基本計画やデザインディレクションを担当した出口さんはこう話す。
みどりを内装で表現するため、事業者とは何度も協議を重ねたという。「最初は商業的な賑わいを重視してデザインしていたのですが、公園を意識することでよりシンプルになり、外の気配を感じやすいデザインへと着地しました」と話すのは2・3階の内装を担当した日野さんだ。「外の気配というものの捉え方は人それぞれです。単純に植栽を置いて表現するのではなく、風や光、空の色といった自然のもたらす効果を感じられる空間を表現しました」
具体的には、地下は土、上階に上がるにつれ緑や風、光といった自然の要素を感じられるような空間をイメージして設計された。「飲食店やフードホールが入る地下は、大地の命を育む地中に含まれる栄養素から着想し、食空間に華やかさを与えるため鉱石や土から着想したメインマテリアルを取り入れました」と出口さん。一方、2階の共用部に「風」をデザインした日野さんは、その経緯をこう語る。「風は目に見えないものですからね。フィルターを通して風を表現するしかない。2階は商業施設やオフィスなどさまざまな方向へ人が行き交う場所です。天井から軽やかなパイプを吊り下げ、先端にキラキラしたペンダントをつけて、風で揺れるたびに光が反射するようなオブジェを設置しました」
テラスからの自然光が差し込み、多くの人が行き交うエリアにさりげなくエレガントなオブジェを配することで、風や木漏れ日を表現し、内と外とが一体となったシームレスな空間をつくり出す。また、外部に面した1階のレストスペースには鏡面天井やプリズムのオブジェを取り入れることで外部の光や緑を感じさせる演出を、3階のエスカレーター付近には落ち着いた色調の木質の壁にさりげなく金物を配し、照明が当たることで上質な光が表現されるようなデザインを施した。 内と外をつなぐ内装デザインを設計するのに欠かせないのが「土間・軒・庭」というコンセプトを高めるもうひとつのデザインエレメントだ。床は自然の要素を感じさせつつ外を意識できる土間のような素材を、店舗前のファサードには軒をつくって共用部とのつながりを、地下には庭を設けて人が滞留する場所をつくり出した。「いずれも日本独自の空間様式ですが、内と外、通路とテナント、人と人をつなぐ役割を果たしています」と出口さん。環境デザインコンセプトの「Sense of Park」を表現するために、建物や公園と調和した考え方を建築やテナントの設計者とも共有することで、この場の独自性を高めた施設づくりを目指した。
大規模ターミナル駅直結の都市公園としては世界最大級の規模を誇るうめきた公園ができることに、3人は期待を寄せている。「都会の喧騒の中でホッと安らげる場所が公園です。公園の延長となるようデザインされた館内でも同じような空間を提供したい。そのような心地良い空間でこそ、ひらめきやアイディア、イノベーションが芽生えると考えています」と米田さん。一方、日野さんは「自分自身もエンドユーザーとして通う場所になる。目的もなく公園に行き、その流れで買い物や食事をするでしょう。子どもからお年寄りまでみんなが集う場所が梅田にできることが楽しみです」と話す。「公園は何かをつくって完成させる場所ではなく、多様な人が集まることで魅力が高まり発展していく場所」と出口さんも続ける。 今回の内装は、将来的なアップデートも見越して、シンプルな設計を心がけたそうだ。未来へ発展することを願ってつくられたこの場所は、集う人たちによってさらに輝きを増していくだろう。
※掲載しているパースはすべて計画中のものであり、変更される可能性があります。 写真・藤本賢一 文・久保寺潤子