公園を自分たちで育てていこうという愛着を持ってほしい

2021.02.26

村上豪英

学びを通じて人の輪を生み出すプロジェクト「神戸モトマチ大学」や旧居留地の東側にある東遊園地の社会実験「アーバンピクニック」など、神戸の街のにぎわい創出に尽力している村上豪英さん。彼はまた創業75年となる村上工務店の三代目の代表取締役社長でもある。神戸に深く関わり続ける原動力について話を聞いた。 Q. 神戸という街をもっと良くしていきたいと思われたきっかけは何ですか? A. 自然が好きな母の影響で、大学では生態学を専攻していました。最初は実家の建設業を継ぐつもりはまったくなくて、むしろ自然保護の観点から建設業は敵だとすら思っていました(笑)。ですが大学4回生の時に阪神・淡路大震災に遭い、建物が倒壊しているのを見て涙が溢れ、神戸という街が好きだとその時に実感したんです。やはり街を再生する時に建築会社というのは大変な力になります。そこで建設業を仕事にする選択をしました。 その後、2011年に東日本大震災が起き、東北にボランティアに行きました。その時に被災者の方から「君は神戸から来たんでしょう? 神戸はどう復興したの?」と聞かれて、答えられなかったんですね。まだまだ神戸という街は復興していないと思うし、振り返ると阪神・淡路大震災であんなに街のことを考えていたのに、結局16年もの間、自分は神戸のために何もしてこなかった、語れることが何もないと気がつきました。それがきっかけとなり、自分ができることは何だろう?と思った時に、街を知る勉強会ならできるかなと2011年6月から「神戸モトマチ大学」を始めたんです。神戸で志を持って頑張っている人を講師として招き、学びを媒介に人が自然につながっていく場をつくりました。月1回のペースでこれまでに約90回開催して、今年で10周年になります。

Q. その後、神戸の中心地の東遊園地の社会実験「アーバンピクニック」をスタートされたのですね。プロジェクトを通じて公園や利用する方にどのような変化がありましたか? またこれまで反響が大きかったイベントについて教えてください。 A. 三宮駅から徒歩約10分に位置する東遊園地は、もともとは旧居留地の外国人専用のプレイグラウンドでした。日本の都市公園では東京の日比谷公園と横浜の山下公園に並ぶ約150年の歴史を持つ公園です。神戸ルミナリエや神戸まつり等のイベントの時はにぎわいますが、ふだんは閑散としていて、土のグラウンドで砂漠みたいなところだったんです。そこを芝生化してカフェやアウトドアライブラリーを設置することを神戸市に提案したのがきっかけです。

「日常的なにぎわいの創出」をテーマに、芝生化や「アーバンピクニック」としてさまざまな社会実験を行う東遊園地。神戸の農産物などを取り扱うファーマーズマーケットも行われる。

2015年に始めた当初は春と秋に2週間ずつ社会実験を行いましたが、これまで公園横を通り過ぎるだけだった市民が芝生の上で休んだり滞在したりしてくれるようになりました。2016年からは市の予算がついてグラウンドのほぼ全面の芝生化が実現し、さまざまなプログラムを開催しました。プロの演奏家による「芝生の演奏会」や、ヨガやフラなどのアクティビティ、詩の朗読会など。私が好きなのは、自分の家に眠っている楽器を持ち寄り自由に奏でる「楽器に触れる東遊園地」というプログラムです。たとえばヨガのプログラムを主催するには、ヨガの先生にならないといけないですよね。でもこれなら自分の家にある楽器を持ってくるだけで主催者の一員になれます。バイオリンやトランペットだけでなく、カスタネットでもいいんです(笑)。市民の皆が主催者側になるというのがすごく大切だなと思っていて、主催する側に立つと公園に対する愛着がわいてきて、公園を自分たちで育てていこうという気持ちになりますよね。2022年秋には、公園全体をリニューアルオープンして、にぎわい拠点施設ができる予定です。

Q. 市民全員がプレイヤー側になって公園に愛着を育むという取り組みですが、気をつけていることなどはありますか? A. 私はコミュニティという言葉が苦手なので、なるべく使わないし、コミュニティをつくらないようにしています。コミュニティって、どうしてもコミュニティの内と外で境界ができる言葉ですよね。あそこは常連ばかりが集まっている場所だと思うと人が寄ってこない、居心地が良くないですからね。だから外の人が入りにくくなるという状況には極力ならないようにいつも意識しています。公園はそういうのが許される場所ではないですから。コミュニティの良くない面が出ない状態をつくることには気をつけています。

アコースティックが奏でられる公園として企画された東遊園地の「芝生の演奏会」は、まさに芝生の上に立って自由に誰もが参加できる演奏会。プロの演奏を間近で体感できる楽しい機会。

Q. JR三ノ宮駅前の三宮ターミナルビル跡地を活用して、現在開催されている音楽と食の期間限定アウトドアホール「Street Table三ノ宮」の運営をされていますが、始めるにあたって苦労されたことはありますか? A. 2020年12月19日からスタートして2021年9月26日まで開催する予定ですが、スタートした瞬間から極寒の日々。計画を聞いた当初はやめようかなと思っていたんです。駅前の一等地でなにかをした経験もなかったし。ただコロナ禍で苦しんでいる飲食業の方やライブハウスの人たちにとって活躍の場に少しでもなれればと、リスク負担付きボランティアの気持ちでやろうと決めました(笑)。神戸市内の飲食店8店舗によるフードスタンドと特設ステージがあります。

再開発途中の三宮駅前の更地を利用したプロジェクト「ストリートテーブル」。使わなくなった家具や素材をリユースし、アウトドアライブやフードスタンドなどで神戸の街を盛り上げる。

神戸市やJR西日本が連携する大きなプロジェクトだとどうしても誰かがつくってくれたお仕着せの場となり、市民は消費者としてそこを訪れることになります。そうではなくもっと市民の関わりしろがほしい、いろんな人が関われる場所になれるように、つくるプロセスからいろんな人たちと共有しようと屋台の椅子を塗ったり、使わなくなったおもちゃのオブジェをつくったりするワークショップを開催しました。8店舗のフードスタンドもそれぞれ8組の設計者に別々につくってもらい個性的な設えにするなど、駅前の広場に人が滞在しやすい仕掛けを増やしていきます。

Q. 神戸のお隣、大阪で進めているうめきた2期地区開発プロジェクトについてどう思われますか? 実は2019年10月から2020年9月頭まで、グランフロント大阪と梅田スカイビルをつなぐ地上通路沿いの80平米のスペースを活用して「UMEKITA BASE」という場づくりをしたんです。もともとあの通りは、一心不乱に足早に通り抜ける場所(笑)。どれだけ滞在してもらえるか、そのためにはプレイヤー側をどんどん増やし愛着を持ってもらおうと、カフェのほか、「みどりの演奏会」や誰でも自由に弾けるピアノを置いたりしていました。うめきた2期地区には緑あふれる広大な都市公園ができることで、それまで分断していた大阪駅と中津と大淀エリアをつなぐ場になると期待しています。

村上豪英(むらかみ・たけひで)
1972年生まれ。創業75年の株式会社村上工務店の代表取締役社長、神戸モトマチ大学代表、「神戸のまちしごと企画運営」などを手掛ける有限会社リバーワークス代表取締役社長、「アーバンピクニック」を主催する一般社団法人リバブルシティイニシアティブ代表理事。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子