街を育て持続的な発展を支える、梅田のエリアマネジメントとは

2021.08.20

エリアマネジメントとは、開発だけを目的にしていた都市づくりから、街そのものの価値や魅力を向上させるために住民や開発事業者らが一体となってまちづくりを行い、維持管理・運営(マネジメント)し、街を育てていくこと。西日本最大のターミナル駅である大阪・梅田エリアではどういったエリアマネジメントが行われているのか紹介しよう。 エリアマネジメント、どんなイメージをお持ちだろうか。大阪でも多くのエリアマネジメント団体が活動している。行政と民間が一緒になって新しい仕組みをつくり出し、既存の枠組を活用して街の活性化に取り組む。大規模開発が竣工してからその地区をより魅力的な街へと育てていくのだ。 うめきたエリアでは、先行開発区域であるグランフロント大阪のエリアマネジメントを一般社団法人グランフロント大阪TMO(以下TMO)が行っている。「グランフロント大阪が掲げているビジョンは“多様な人々や感動との出会いが新しいアイデアやイノベーションを育むまち”。オフィス、ショップ、レストラン、ホテル、レジデンス、ナレッジキャピタルなど、さまざまな施設に加えてうめきた広場やせせらぎの道などのパブリックスペースも非常に多くちりばめられています。オフィスやホテルといったそれぞれの機能が魅力的なのはもちろんですが、パブリックスペースも含めた街区全体のマネジメントをして、来館者や就業者がしっかりと関わることができる仕組みでグランフロント大阪そのものの価値を高め、近隣の方との連携で梅田地区全体をさらに魅力的にする役割を担っています。日々足を運びたくなる賑わいと活気あふれる街を創出するのがTMOのミッションです」と話すのは、TMO事務局長の増井健太郎さん。

増井健太郎さん/一般社団法人グランフロント大阪TMO(事務局長)

TMOは、うめきた広場やナレッジプラザをはじめとしたパブリックスペースを活用したイベントや広告事業を展開する「プロモーション部」と、官民連携し地域とともに新しいまちの運営を担う「まちづくり推進部」で構成されている。 「プロモーション部では、グランフロント大阪で掲出するフラッグやバナー広告を管理しています。クライアント対応や現場運営の統括管理だけでなく、エリアの彩りにも大きく貢献しています。広告審査にはしっかりとしたガイドラインがあり、グランフロント大阪の良質な景観を維持するために、景観のノイズとなる派手な蛍光色、暴力や破壊シーンがある広告などはご遠慮いただいています。良質な景観のために学識経験者、行政、民間が一体となり、年1回の委員会で方向性を確認しています。また、うめきた広場のベンチや北館西側のパラソルやテーブルを設置することによって、レストランで楽しんでいただく以外にも憩う空間と時間を提供しています。景観ガイドラインやベンチはまちづくり推進部が担当していますが、事務局がまさに一体となることで快適な空間をつくり出しています」 さらに開業当時から展開している「UMEGLE」は、梅田エリアの12箇所の停留所を巡回するバスや、レンタサイクルなどの交通サービスがある。 「まちづくり推進事業のひとつである『UMEGLE』はバス、レンタサイクル、パーキングの3つの柱からなります。都市中心部への自動車の流入を抑制して、歩行者主体の『歩いて楽しいまちづくり』に取り組んでいます。乗ってきた自家用車をパーキングに停めて、バスやレンタサイクルにスムーズにアクセスできるようにした、“うめだ、ぐるっと、めぐる。”がUMEGLE(うめぐる)です」

グランフロント大阪の西側にある、水景を眺めながら歩く「せせらぎの道」。フラッグ広告も目に優しいビジュアルで統一されている。

エリアマネジメントはあらゆる側面から行っている。 「我々TMOの活動で、皆さんが最も目にされるのは、グランフロント大阪で企画されるさまざまなイベントだと思います。たとえば大阪駅と直結しているうめきた広場では、夏の風物詩として『梅田ゆかた祭』があります。広場に櫓を組んで太鼓を叩き、その周りを地域の皆さまと一緒に輪になって盆踊りをします。我々だけで企画運営するのではなく、近隣の方々と一緒につくり上げていくイベントです。現在はコロナ禍で中止となっていますが、広場に白い砂を敷き詰めてのビーチバレー大会は大阪駅のすぐそばにいることを忘れてしまいます。大階段がスタンド席となって観客が座り、その意外性からも人気のあるイベントです。アイススケート『ウメダ★アイスリンクつるんつるん』も冬の風物詩ですし、大相撲三月場所の時期に合わせて開催される『うめきた場所』は、北館1階のナレッジプラザの中央に土俵を設置し、力士たちの迫力ある取り組みを間近でご覧いただき、本場所の雰囲気を味わっていただけます」と四季折々に多様なイベントが開催される。最近は、関西でイベントをやるならグランフロント大阪でと、関係者からの声もよく聞かれるという。

うめきた広場に櫓が登場し、地元の北区地域女性団体協議会をはじめとする関係者が踊りの手本をしてくれるなど地域が一体となって盛り上がる「梅田ゆかた祭」。

「ジャパンビーチバレーボールツアー2017ファイナルグランフロント大阪大会」では、 大阪駅から直近のうめきた広場に仮設コートを設置。観客は大階段に座って公式ビーチバレーの試合を無料で楽しんだ。

2017年より開催されている相撲イベント「うめきた場所」。大阪春の風物詩である大相撲三月場所に合わせて実施され、力士の熱い闘いを間近で体感できる。

さらに2021年春からは新たなアートプロジェクト「ART SCRAMBLE」がスタートした。これは関西にゆかりのある新進気鋭のアーティストをサポートし、世界に誇れるカルチャーを発掘・発信していくものだ。こけら落としとなる第1弾は京都芸術大学教授であり現代美術作家の椿昇さんをキュレーターに迎え、3名のアーティストの作品をグランフロント大阪に展示している。 「関西の新進気鋭のアーティストたちに創作していただき、作品を一定の期間で入れ替えていきます。アーティストを応援するとともに、グランフロント大阪に来てくださる方々がアートに触れる機会になればということではじめました。ここでアートに触れた若い人が、いつかは自分がアートをつくり出す立場になってくれたらいいなと、そして『私のアートの原点はグランフロント大阪です』と言っていただけたら本望ですね。そんな長い時間の流れで循環できたらと夢見ています」と未来を思い、楽しそうに語る。 うめきた広場の人気者“TED HYBER(テッド・イベール)”もTMOの取り組みのひとつだ。「5周年イベントでTED HYBERを招いたところ大人気となり、広場の水景に定位置を確保しました(笑)。季節ごとに衣装を変え、いつも心を和ませてくれます」 アートだけでなく、FM802とタッグを組んだ「MUSIC BUSKER IN UMEKITA(ミュージック バスカー イン ウメキタ)」では世界へ羽ばたくミュージシャンを発掘や応援もしている。誰かを応援することができ、応援されることもある楽しい街だ。

「MUSIC BUSKER IN UMEKITA」とTED HYBERが演出する夕涼みはグランフロント大阪ならではの風景。

グランフロント大阪北館の「せせらぎの道」沿い壁面にある、兵庫県出身のMon Koutaro Ooyamaによるライブペイント作品『ツナガリ』(右)と擬態し順応するタコをモチーフとした『多幸』(左)は兵庫県在住のKACによるグラフィティ作品。

TMOは単体での活動だけでなく、梅田地区エリアマネジメント実践連絡会(以下、実践連絡会)と一体になった取り組みもしている。 2009年11月に発足した実践連絡会は西日本旅客鉄道株式会社、阪急電鉄株式会社、阪神電気鉄道株式会社、TMOと、2021年4月に新たに大阪市高速電気軌道株式会社(Osaka Metro)が加わった5者で防災や美観といったエリアマメネジメント活動を通じて梅田地区のさらなる魅力の向上を図っている。

街中で展開するイベント開催前に周辺事業者や地域の方と連携し街の美化を行っている。

「来る2023年はグランフロント大阪が開業して10周年となる年です。翌24年夏にはうめきた2期の先行まちびらきが予定され、そして25年には大阪・関西万博が開幕します。広大な都市公園が中心となるうめきた2期とは、うめきたエリアの魅力を高めていくためにともに連携していろいろな仕掛けができたらいいですね。それから、梅田地区全体の発展のために、ほかのエリアマネジメント団体とも今後も一体となってまちづくりをしていきます」 やがてうめきた2期が加わり、梅田のまちづくりがさらに重要となるいま、エリアマネジメントは世界に発信する新しい梅田の魅力創出に大きな役割を果たすに違いない。

大阪中心部のエリアマネジメント団体等が一丸となり、新型コロナウイルス感染予防に関する啓発や、医療・公共交通機関・流通に従事されている方々へ感謝の気持ちをデジタルサイネージ等活用し、各エリアから発信した。

※グランフロント大阪のイベント写真は2019年度以前の様子となります。現在のイベント情報はグランフロント大阪の公式サイト(https://www.grandfront-osaka.jp/)をご確認ください。 写真:内藤貞保 文:脇本暁子