最先端技術が満載の近未来的ステーション、「うめきた(大阪)地下駅」が来春誕生。

2022.04.19

西日本最大のターミナル駅・JR大阪駅では、1日の乗降者数が約84.5万人(*)、約1500本の列車が発着する。その大阪駅北側に誕生するのが、うめきた2期だ。2024年夏の先行まちびらきによって誕生する緑あふれる新しい街にさきがけ、来春開業するのが「うめきた(大阪)地下駅」。『「みどり」と「イノベーション」の融合拠点』である国際都市にふさわしい、JR西日本の最先端デジタル技術が集結した近未来的な駅になるという。

右から佐々木英輔さん、藤原慶信さん。来春開業予定の「うめきた(大阪)地下駅」が建設されている様子を見下ろせるオフィス。

新駅を紹介する前に、駅が建設されるうめきた2期再開発区域の歴史について振り返りたい。話を聞いたのは、地下化工事の現場の責任者を担当していたJR西日本 総合企画本部の藤原慶信さんだ。 「うめきた2期の再開発区域には、もともと関西の一大物流拠点である梅田貨物駅がありました。1987年に旧国鉄分割民営化で国鉄からJRに変わったときに貨物駅の移転が決まり、その跡地は将来的にまちづくりに利用すると計画されました。2004年に大阪市により『大阪駅北地区まちづくり基本計画』が策定され、2015年11月にJR東海道支線地下化・新駅設置事業の工事を着手しました。ちなみに貨物駅が移転したのは2013年と最近のことで吹田貨物ターミナル駅と百済貨物ターミナル駅(大阪市)にその機能が引き継がれています」

藤原慶信さん/西日本旅客鉄道株式会社 (総合企画本部 都市圏輸送改善 課長)

梅田の地名の由来は、その名の通り湿地帯を埋め立てた「埋田」という説が有力で、江戸時代から明治にかけては堂島川から大阪駅に直接船が乗り入れできる運河が開削されていた。そうした歴史的背景を持つ地盤での地下トンネルと新駅設置の土木工事は難度が高く、苦労する点もあったという。 「これだけの都心でトンネルを開削するには通常であれば筒状の機械で地中を掘り進んでいくシールド工法が多いのですが、『うめきた(大阪)地下駅』の場合は非常にレアなケースで、地上から掘削しトンネルを構築する開削工法を採用しています。これは広大な敷地があるからこそ実現できます。また、梅田粘土とよばれる非常に柔らかく形の変わりやすい粘土質の土壌でしたので、トンネルを掘るために土を留める『土留め壁』の工事をしていくにも、壁が変形してしまうなどやはり大変で、非常に気を使うところではありました。さらに掘削していくと戦後に埋め立てられた運河の形跡があり、巨大なコンクリートの塊を掘り出すのに難航しましたが、2022年4月の時点で、地下駅の工事は8割方完成しましたので予定通り来春開業できそうです」

コンコース階のイメージ。顔認証改札やOne to Oneのデジタル案内など新技術を導入したサービスを展開していく予定。

世界初方式の新型ホームドア『フルスクリーンホームドア』。特急はるかやおおさか東線などの在来線などドアの位置が異なる車両に対応できる。

うめきた2期が国際競争力の拠点となるには空港へのアクセスが必須だが、これまで関西国際空港を結ぶ特急『はるか』は大阪駅には停車していなかった。しかし、新駅開業で直接乗り入れが可能となり、関西の鉄道ネットワークの向上が期待されている。 「新駅に特急『はるか』が乗り入れることになり、これまで大阪駅から関西空港駅まで64分かかっていたところ、大阪駅で特急はるかをご利用いただくことで平均48分と16分ほど短縮できることになります。空港へのアクセスだけではなく、和歌山方面へ向かう特急『くろしお』もご利用いただけます。インバウンドの特に欧米の方に人気な熊野古道へ行きやすくなり、おおさか東線の乗り入れも可能になりますので、大阪東部からのアクセスも格段に向上します」と藤原さんが太鼓判を押す。 うめきた2期の玄関口となる「うめきた(大阪)地下駅」は、2018年に策定されたJR西日本技術ビジョンの具体化に挑戦する未来駅として位置づけられている。なかでも「JR WEST LABO」はイノベーションの実験場としてデジタル技術のインタラクティブな空間を創出していく予定だ。 「『JR WEST LABO』は当社のイノベーションの拠点として位置づけています。2025年には大阪・関西万博も開催されるのでイノベーションを加速させるために、当社だけでなくいろいろな企業や団体様とオープンイノベーションする場(共創フィールド)を設け、発信拠点としていきます。新駅で実装予定の最新技術のひとつとして、『フルスクリーンホームドア』があります。世界初方式の試みとなりますが、あらゆる車両や編成に応じてふすまのように自在に可動する新型ホームドアが設置されます。また個人の行き先に合わせて表示するOne to Oneのデジタル案内や、実証実験段階ですが、顔認証を使った改札も実装予定です。さらに大きなスクリーンにインタラクティブな空間を映像で投影する空間演出なども計画しています。今後も2025年の大阪・関西万博を目標に、我々がうめきた(大阪)地下駅で実現したい世界観に共感し、共創していただける企業様と組んでいく予定です」と新たな技術や新サービスを体験できる駅になる。

「JR WEST LABO」のイメージ。顔認証改札やデジタル案内など駅構内のシームレスでスムーズな移動などさまざまな新サービスを体験でき、新駅を中心にデジタルとリアルが融合し近未来的な空間を創出。

地下の駅直上部には、地上3階建ての駅ビルと広場が誕生するという。JR大阪駅直結のノースゲートビルディングの開発やビル内の『ルクア大阪』の店舗計画など立ち上げから関わるJR西日本 創造本部の佐々木英輔さんは新駅ビルの構想をこう説明する。 「地上3階建ての低層駅ビルは南北に長い形状となっています。JR大阪駅からルクアがあるノースゲートビルを抜けて新駅ビルへ2階レベルで約50mのデッキでつながっています。駅ビルは中心に店舗がありその周囲をぐるりと通路にして回遊性を持たせています。外周を通るとうめきた2期地区の各施設や公園とつながり、北側には階段を設置して交差点に抜けるルートもあります」

佐々木英輔さん/西日本旅客鉄道株式会社(創造本部 不動産統括部 拠点開発グループ 担当部長) 

「従来の駅ビルは外部環境の変化に左右されないクローズドのイメージが多いと思いますが、ここは公園の眺望を楽しみながら風を感じ、緑の匂いを感じるようなこれまでにない駅ビルになります」と佐々木さん。 「真下に地下駅があるため、その躯体の上に建設されるのであまり大きな建物は建てられないという条件があり、低層ビルとする計画はあらかじめ決まっていました。そしてうめきた2期プロジェクトのなかで都市公園の存在はかなり大きな比重を占めています。そうした場の力を借り、公園の緑を感じ、緑の中に包まれるようなイメージです。公園に遊びにくる方々や就労者、周囲の住民の皆さんにも貢献できるようなマーチャンダイジング(店舗計画)を現在検討しています」と緑と一体化するような駅ビルを目指しているという。「大阪駅の眼前にこれだけ大きな緑の空間を持つ開発はほかに類をみません。これからの大阪にとって起爆剤になる場となり関西を牽引していくのではと期待しています。そうした場であるうめきた2期に、便利に快適にストレスなく訪れていただく貢献ができることに鉄道事業者として喜びを感じています」と藤原さんが続ける。 技術の粋を結集した新しい駅・うめきた(大阪)地下駅は、うめきた2期の玄関口として、人が行き交うだけでなくイノベーションを体感できる場として大阪、そして日本を代表するような駅になるだろう。 *「国土数値情報(駅別乗降客数データ)」(国土交通省国土政策局・令和元年度)

撮影:蛭子真 文:脇本暁子