食い倒れの街・大阪の魅力は、個人店の強さ×関西弁×混沌。
2022.11.02
2022.11.02
“大阪にはうまいもんがいっぱいあるんやでー たこ焼き 餃子 お好み焼き 豚まん”。大阪のご当地ソングでも歌われるように、おいしいものが溢れ、食い倒れの街として知られる大阪。その大阪ならではの食の魅力や食の面からうめきた2期に期待することなどを、毎日放送制作スポーツ局プロデューサーの本郷義浩さんに聞いた。料理情報番組のプロデューサーとして、大阪、京都をはじめとする関西圏のフードシーンを盛り上げてきたトップランナーだ。 「大阪の食の魅力は、超高級店から普段使いの店まで、個人店の個性が強いことにあると思います。飄々として粋なご主人が70歳をこえてもシュッとカウンターに立つ、30年以上満席を続けてきた割烹『もめん』。『ゴメンネJIRO』という店名が体をあらわす、話せばとても面白いシェフがいる洋食店。日々、夫婦漫才が繰り広げられる焼肉店『生ホルモン処おさむちゃん。』や、シブいおっちゃんがひとりでやっているお好み焼き店『DonDon亭』など、料理ジャンルも外観も内装も値段も多種多様な個人店が集まって、良い意味で混沌とした食文化をつくっています。店の人は関西弁で、初めての客に対しても、『いらっしゃい。兄さん、どっから来たん?』『うちの店のこれ食べてほしいわ。めっちゃうまいで』『あんたお金持ちそうやな。結婚してるん?』って、一歩の踏み込みが強いというか。関西人、関西弁だからこそのコミュニケーション力で、お店の人とお客さんの関係が瞬時にして少しタイトになる。場が温まるんですね。場が温まると、お客さんは楽しくなってくる。楽しくなると料理もよりおいしく感じられるんです」 環境的な要素も大きいと本郷さんは続ける。「大阪は辻󠄀調など調理師専門学校の存在が大きく、多くの卒業生が日本料理や各国料理の裾野を広げています。また、大阪ガスさん、関西電力さんら食に関わる企業が、食文化を活性化する活動を何十年もされてきた。さらには、うちの局もふくめて民放各局が料理店や料理人をこれまた何十年も取材して放送してきたことで、スターシェフがうまれたり、料理人を目指す人がでたり、料理界のステータスやテンションをあげる役割を担ってきました。 つまり、コミュニケーション力の高い個性的な個人店が生き残っていて、混沌とした集合体をつくり、専門学校、企業、メディアによる料理業界を盛り上げる力が、うまく機能している。『うまいもんを食べたい』から進化した『うまいもんを楽しく食べたい』という欲望を多層的なレーヤーでかなえられるのが、大阪の食の魅力だと思います」
学生時代、美食には一切興味がなく、リドリー・スコット監督の映画『ブレードランナー』を観て衝撃を受け、映像の仕事に携わるためテレビ局に入社した本郷さん。入社3年目で『あまからアベニュー』という番組担当になり、食にめざめ、いまでは番組で取材した飲食店の数はのべ1万軒、プライベートでの食べ歩きも1万軒以上という公私ともに食の道を邁進中。2001年スタートの『水野真紀の魔法のレストラン』は視聴者、出演者、取材先、スタッフのみんなが幸せになる“四方良し”を目指してつくった料理情報番組だ。そこで培ったネットワークと知見を生かして、2019年9月、「株式会社TOROMI PRODUCE」を創業した。 「社内の新規事業コンテストで選ばれ、食事業会社を設立しました。『食べる、を面白く。』をテーマに、レストランプロデュース、イベントプロデュース、映像コンテンツ制作、商品開発&コンサルティングという4大事業を展開しています。 “とろみ”には、見た目をおいしそうにする効果、保温効果、少ない塩分で旨味を感じやすくなる減塩効果という3つの効果があります。 “あなたの会社にとろみをつけることで、事業をより面白くし、価値を上げる。そのお手伝いをします”という意味もこめて社名にしました」 その一環で『TOROMI洋食堂』を中崎町に2022年1月8日オープン。ブランド牛のハンバーグやビフカツサンド、ナポリタンなどが揃う大人の洋食店だ。また、京都某所にある『秘密のシェフズテーブルq』は6席だけの完全会員制レストラン。厨房設計から依頼した『祇園さゝ木』の佐々木浩さんをはじめとする一流シェフが入れ替わりで腕を振るう。知る人ぞ知るクローズドのレストランながら、日本中の食通に注目されている。
そして、本郷さんは「TOROMI PRODUCE」として「うめきた外庭SQUARE」での取り組みも実施。「うめきた外庭SQUARE」はみどりとイノベーションの融合したまちづくりを目指したトライアルの場として、1000日間限定で開設している屋外型の実証実験空間。芝生と青空が広がるこの広場で、“みどりのリビングラボ”をテーマにしたプロジェクト「外庭 Well-being Days」を開催したが、そのプログラムのひとつ「Dinner on the lawn」の総合プロデューサーとして、中華料理店『熱香森』の瀧谷芳男シェフ、フレンチレストラン『リュミエール』の唐渡泰シェフによるガラディナーを企画した。 「芝生の上にいちから厨房をつくるのは、衛生管理や営業許可をとるのが大変でした。でも都会の真ん中のオアシスのような場所で、摩天楼を見ながら、風や温度、暮れゆく空の色の変化を生で感じつつ、一流のディナーを味わえるのはいいなと思いました。うめきた2期のまちびらき後の公園利用のトライアルという位置づけのイベントでしたが、同時に新しい飲食体験の可能性を見出すことができてよかったです」
うめきた2期には、世界各地で事業を展開しているシティガイド『タイムアウト』の編集者が監修する、“食と文化”を体験できるフードマーケット「Time Out Market Osaka」がアジア初進出。ヒルトンの最上級ラグジュアリーホテルブランド「ウォルドーフ・アストリア大阪」も開業予定だ。本郷さんがうめきた2期に食の面から期待することはなんだろうか。 「大阪のキタって、北新地、西天満以外ではハレの日や接待で使えるような個人店が少ないんです。そんなハイエンドな需要にこたえるゾーン。あるいは国内外からの観光客が気軽に大阪のグルメを味わえる『Time Out Market Osaka』や、身体によい、環境に優しい料理を食べられる店。そして『Dinner on the lawn』のような緑の中で自然との一体感を感じながら食事ができるオープンなレストランなど、ここにくれば、大阪の食文化を振れ幅広く、しかも楽しく体験できるという、良い意味で『混沌』とした食のワンダーランド的な役割を期待します。旧大阪中央郵便局敷地を含めた開発計画も再来年の春に向けて進んでいるし、2030年以降には大阪梅田駅が大改装される。新しい拠点が次々とできる中で、うめきた2期は“ハブ”として、オリジナリティーあふれ、世界に誇れる商業施設になってほしいですね」
写真・東谷幸一 文・小長谷奈都子