大阪と新しい街をつなぐ。GGNが創るうめきた2期のランドスケープとは
2020.12.21
2020.12.21
大阪駅北で開発が進む「うめきた2期」。自然との共生を目指す新たな街で、そのまちづくりに携わるランドスケープ・デザイン事務所「グスタフソン・ガスリー・ニコル(以下GGN)」のキャサリン・グスタフソンさんと鈴木マキエさんに、緑豊かなまちづくりのビジョンを聞いた。
大阪駅の北に広がる元操車場の土地が、緑豊かな街に生まれ変わる。このうめきた2期地区全体のまちづくりに参加するのが、アメリカ・シアトルに拠点を持つランドスケープ・デザイン事務所「GGN」だ。ランドスケープデザイナーは、私たちが暮らす町の風景をつくり出す。公園はもちろん、自然環境を含む市街地そのものまでデザインするなど、その仕事は広域におよぶ。そこで暮らし、働く人。そこを訪れる人、そしてほかの動植物まで、都市と自然環境をつなぐ環境のデザイナーといえる。そのプロフェッショナルであるGGNは、アメリカをはじめ、世界中のさまざまな都市でプロジェクトに携わる。 「私たちが暮らすシアトルは太平洋を通じて日本とつながる街。なにより日本庭園という歴史あるランドスケープ文化を持つ国ですから、日本には親しみを感じていました」と話すのは、GGNの設立者のひとり、キャサリン・グスタフソンさんだ。
キャサリンさんはランドスケープをデザインするうえで重視するものを、「土地の魂ともいうべきなにか」だと表現する。 「私たちは土地が持つ歴史や文化、地形、自然環境や生態系などを継承しながら、土地に適切なデザインを探求していきます。今回はまず、新たに大阪を学ぶことから始めました」 キャサリンさんやGGNのシニア・アソシエイトである鈴木マキエさんをはじめとするGGNチームは、大阪を訪れ、古地図などで土地の歴史を調べ、自然環境や生態系のリサーチを行い、食や笑いなどの多様な文化の深さを学んでいった。そのなかで、水運とともに商業文化が発展した水の都という歴史が彼女を魅了した。 「江戸時代には“八百八橋”と呼ばれたほど、大阪の人々が多くの橋をかけ、群島をつなぎ、街の風景をつくっていった歴史に心惹かれました。今回のプロジェクトは、田畑などから操車場へ変遷した土地を舞台にします。この土地が人々を有機的につなぐ新たなステージになります」 キャサリンさんは成熟した庭園文化を持つ京都に隣接する大阪で、都市機能と自然環境を併存するコンテンポラリーなランドスケープを目指すという。
「大きな都市でありながら、大阪はオープンスペースを持ちません。都市の中心部に人々が自身で使い方を模索できる、自由度の高い空間を設けたいと考えています。それは、オープンであり、街とのつながりを取り戻す場になるでしょう」 うめきた2期は約91,000㎡におよぶ敷地全体のうち、半分にあたる約45,000㎡を都市公園にあてている。GGNは今回、南北に分かれた公園の計画にそれぞれのアイデンティティを与えた。 「南は芝生や樹木を植えたオープンな場で、イベントなどの開催も視野に入れた空間。北は大阪らしさや季節感を感じられる植物を中心に植え、現在の都市部に欠けている豊かな自然を取り戻す空間です。それらは建築物の添え物ではなく、植物自身が街を規定していくもの。先ほど、運河に橋を架けた大阪の歴史に触れましたが、私たちは今回その歴史を引用し、地上7mの位置にイノベーションパス(仮称:ひらめきの橋)と名付けた橋で南北をつなぎます。これは大阪の歴史と新しく生まれる街をつなぐ存在でもあるのです」
こうしたキャサリンさんの話を受け、マキエさんは次のように続ける。 「日本では建築に付随する屋外エリア=ランドスケープと表現しますが、私たちは建築の外部の囲いではなく、街全体をつなぎ、街そのものといえる場をつくり出す専門家です。また今回、有事には防災の拠点となり、避難場所として機能することも求められました。普段から人々を自由に迎え入れるオープンな場を目指し、さまざまなアプローチをとっています。私たちが望むのは柔軟性のある枠組み。多様な人々の多様なニーズに応える、大きな器ともいうべきスペース。うめきたが人々の人生に加わり、次のステージに向かうきっかけとなる。そのような場づくりです」 うめきたのランドスケープには厳選した素材を選ぶ。そのなかには、日本の職人技術をコンテンポラリーに表現する石積みも登場する予定だ。 「人々が自国のルーツにつながり、誇りを感じられる要素を重視しました。また建築技術のみならず紙や布といった技術も素晴らしいものですし、現代のファッションなど、日本には特有のデザイン意識が根付いているのを感じます。それは日本のDNAとも、アイデンティティともいうべきもの。その日本における大阪とはなにか。GGNは日本庭園のような伝統を尊重しつつも、現代的な、誰もが楽しめる開放的な公共空間の実現を考えています」
2024年に先行まちびらきを迎えるが、植物を中心に扱うランドスケープが見据える真の完成は、少し先のことだ。 「ランドスケープは人との関係性によって成り立つもので、自然の要素に基づく人の手による空間です。そのためには適切なマネージメントが重要で、バランスをみながら20〜30年後にひとつの完成を見るように考えています。GGNにおいて不変なのは、自然が持つダイナミズムの重視。自然は人が思う以上にダイナミックに変化しますし、人そのものも進歩することが重要です。たとえばいまから50年前、1970年代の人々が持つ意識は2020年代を生きる私たちと大きく異なります。2050年、私たちは果たしてどうなっているのでしょう。GGNはその進歩に貢献するランドスケープをつくりたいのです」
キャサリンさんはインタビューの終わりに、イギリスの画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの絵が好きだと語り始めた。風景画でよく知られるターナーの作品には、前景があり、中景があり、遠景がある。その奥行きある絵画が目指す先は曖昧ながら、なにかがあるという期待を感じると続ける。うめきたにつくりたいのは、そんなターナーが描く風景のように期待に満ちた空間だと、彼女は言う。
グスタフソン・ガスリー・ニコル(GGN) 1999年に、女性ランドスケープアーキテクトのジェニファー・ガスリー、シャノン・ニコール、キャサリン・グスタフソンの3名がシアトルで設立したランドスケープデザイン事務所。シアトルとワシントンD.C.のスタジオを拠点に、世界の各都市でプロジェクトを手掛ける。2017年には米国ランドスケープ協会のナショナル・ランドスケープ・アーキテクチャー・ファーム・アワード受賞。代表作に、アメリカ・シカゴのミレニアムパーク内にある「ルリー・ガーデン」、ワシントンD.C.の「国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館」のランドスケープなど。 |
写真:サリーン香也子 文:山田泰臣