大阪の新たなグローバル地点を目指す、ヒルトングループが手がける2つのホテル

2021.12.09

ティモシー・ソーパー、藤本博久

ワールドワイドにホテルを展開するヒルトンが、うめきた2期とタッグを組んだ。18を擁するブランドの中から満を持して参画するのは、ホテル業界でも伝説として語られる最上級ラグジュアリーブランド、ウォルドーフ・アストリア(以下ウォルドーフ)と、ライフスタイルブランド、キャノピーbyヒルトン(以下キャノピー)。現在うめきた2期とともに、新しいホテルづくりに向け陣頭指揮にあたるティモシー・ソーパーさんと藤本博久さんに話を聞いた。

「日本の旅館は小規模な家族経営によるパーソナルなサービスがユニーク。私たちもその行き届いたおもてなしの精神をもっと大きな規模で取り入れたい」と語るティモシー・ソーパーさん/ヒルトン(日本・韓国・ミクロネシア地区 代表)

「大阪の人は本物志向なので、世界水準のラグジュアリーを地元の方にも楽しんでいただきたい」と話す、大阪出身の藤本博久さん/ヒルトン(日本・ミクロネシア地区 副社長 開発担当)

ヒルトングループ傘下の最上級ラグジュアリーブランド、ウォルドーフについて藤本さんはこう語る。「いま日本には素晴らしいラグジュアリーホテルがたくさんありますが、ウォルドーフはそれらを圧倒する存在であると自負します。1893年にニューヨークで開業して以来、紳士淑女の社交場であり世界中のVIPを迎え入れてきたホテルには、ピーコック・アレー(着飾った紳士淑女が通路を歩く姿を孔雀に例えて名付けられたラウンジ&バー)やグランド・ステア(ロビーを飾る大階段)、ウォルドーフ・クロック(時代の生き証人である掛け時計)など歴史を物語るシンボルがいまも残っています。うめきた2期でもホテルを象徴するアイコンを取り入れる予定です。ホテルが培ってきた歴史とともに、完全にパーソナライズされたサービス、至高の食体験、本物にこだわった内装が一体となり、真のラグジュアリーな滞在を約束します」

ニューヨークで約130年の歴史を持つウォルドーフ。世界中のVIPを顧客に持つトップレベルのホテルが大阪に誕生することで、日本と世界がさらにつながる。

一方、ライフスタイルブランドを掲げるキャノピーは、大阪という街の特性を存分に意識したアッパーアップスケールクラスのホテルづくりを目指す。「キャノピーはヒルトンが長年かけて、実際のお客様やオーナー様にお話しを聞いて、どういうブランドをいま皆さんが求めていらっしゃるか、ということを突き詰めて立ち上げたブランド。現在、世界で32軒を展開し、15の国・地域で29軒が開業予定です。当ブランドはリラックスして充電できるネイバーフッドのような場所であり、お客様志向のシンプルなサービス、快適な空間とその地元ならではのこだわりのものを提供しています。身近で親しみやすい地域に密着したホテルとしてデザインがされ、新しいアプローチでお客様にサービスをお届けします。洗練された快適な空間を提供するのはもちろんですが、アクティブに地域の文化を体験したいトラベラーに向けて大阪の歴史や文化を発信するとともに、地元の人々にとっても交流の場となるでしょう」

コンセプトのひとつである「Local Know-How(地元ならではのノウハウ)」が示すように、地域の人々とともに文化を発信することを目指すキャノピー。多様なゲストの要望に快く応じるスタッフたちの、フレンドリーな雰囲気も魅力。

うめきた2期地区という大阪の新しい開発地区に、世界最高峰のホテルを展開するねらいについてティモシーさんはこう語る。「まず私たちが注目したのは歴史的なストーリーです。大阪は江戸時代から東海道五十三次によって各都市と結ばれ、人と物の交流が盛んに行われてきました。歴史的に見ても商業の中心地である大阪に拠点を持つことで、世界中のウォルドーフへとつながるキーポイントになるでしょう。国内はもちろん、インバウンドのお客様は信頼のブランドに滞在しながら、人気の観光地である京都を中心とした近畿圏へもスムーズにアクセスできます」。優れたラグジュアリーホテルとは、ホテルそのものがストーリーであり、街の象徴になると語るティモシーさん。うめきた2期地区においては国際的に活躍する方々をはじめ、上質な旅を求める多種多様な観光客のハブとして、ウォルドーフの歴史が新たにここから始まると、意気込みを見せる。

ティモシーさんはロンドン出身。「ロンドンのハイドパークもそうですが、大都市では大きな公園が人々の憩いの場になっています。うめきた2期はビル群の中心に緑あふれる公園があることが、とてもエキサイティング!」

日本には伝統的な旅館からリゾートホテル、インターナショナルな大型ホテルまで多様な宿泊施設がある。現代において、新しいホテルをつくる意義について藤本さんはこう語る。「ホテルの基本的な役割はお客様がいかに快適に過ごしていただくかという点にありますが、それに加え、環境を含めたストーリーテラーとしての役割が大切だと思っています。私たちがうめきた2期に期待しているのは、9.1ヘクタールという大規模な開発の中でおよそ半分を占める緑地が、文化発信の基地になるだろうという点です。私自身も大阪出身で、1986年にヒルトン大阪をオープンして以来、この土地を長年見てきたので愛着も人一倍あります。大阪独自のローカルカルチャーや食文化などをこの場所から発信したい。そのために、広大な緑地とホテルが有機的につながるようにさまざまな仕掛けを考案しているところです」

「いまはホテルづくりの第一段階。ホテルと緑地の親和性について、日々話し合っています」と藤本さん。地元大阪への愛着も深く、世界で唯一無二のホテルづくりを目指す。

2020年以来、世界の生活様式を一変させたパンデミックに関しては、2020年7月に「ヒルトン・クリーンステイ」と題した、新しい衛生基準プログラムを導入した。「ロビーやパブリックスペース、客室のクリーニングは医療用レベルの洗浄製品を使い、徹底的に清掃を行っています。なかでも頻繁に人々が触れる客室のドアノブやリモコンなどは念入りに消毒を行い、除菌が終了した印に客室ドアの外にシールを貼り、お客様が到着されるまで入室者がいないことが、ひと目で分かるようにしています。チェックイン・チェックアウトもヒルトン・オナーズ・アプリを使用すればスマートフォンから行えますし、大規模なカンファレンスでは登壇者以外はリモートで参加することも可能です。コロナ禍でも、私たちはお客様に安心して滞在していただけるよう、目が行き届いたサービスを心がけています。またグローバルなホテルの社会的責任として、サステナブルな取り組みも行っています」。1990年代、初めて日本を訪れた際に泊まった旅館のサービスが非常にパーソナライズされたもので驚いたというティモシーさん。客室数252室を予定しているウォルドーフでも、そんな日本のおもてなしの心を大事にしたいという。「お客様が何を求めているのか、先読みをしてサービスをすること。見た目が良いだけではラグジュアリーホテルとは言えません。そこで提供されるサービスも最高峰でなければ」 うめきた2期地区という新天地に誕生する2つのホテルは、歴史や伝統を現代的な解釈で捉え直し、未来への発信基地になることだろう。

ティモシー・ソーパー
ヒルトンの日本・韓国・ミクロネシア地区 代表。イギリス・ロンドン出身。カークリーズ大学卒業。イギリスで数軒のホテルに従事した後、1988年ヒルトン入社。ホテリエとしての経験も豊富で、1992年から赴任しているアジア太平洋地域においては日本・韓国の複数のホテルで総支配人を務めた。2007年に中華圏・モンゴル地区の運営最高責任者に就任。2012年10月から現職。
藤本博久(ふじもと・ひろひさ)
ヒルトンの日本・ミクロネシア地区 副社長 開発担当。1987年、日新製糖株式会社入社。海外のパートナーとアジア太平洋各国におけるホテルおよびコンドミニアムの開発・運営、航空事業、WWF(世界自然保護基金)とエルニド基金の設立・運営に従事。その後、ソリアノ・アビエーション社、アマンプロリゾート、株式会社シンプレクス・インベストメント・アドバイザーズを経て、2009年ヒルトン入社。福岡や沖縄、お台場、大阪など日本各地に相次いでヒルトンブランドを出店させ、2016年から日本・ミクロネシア地区の上席開発統括部長に。2020年より現職。

ポートレート:藤本賢一 文:久保寺潤子