JR「大阪駅(うめきたエリア)」が3月18日開業!近未来的な駅の全貌が明らかに。

2023.03.06

小森一、河端邦彦

JR大阪駅の新たな地下乗り場「うめきたエリア」が、3月18日に開業する。グラングリーン大阪という国際都市の玄関口となる、近未来的な駅とは一体どういったものだろうか。同駅に導入された世界初の設備とその技術進化について、JR西日本の担当者が語ってくれた。 2023年春、JR大阪駅の北西エリアは大きな変貌を遂げる。2月にこれまで地上を通っていた梅田貨物線は地下化し、3月18日にはいよいよ「うめきたエリア」が開業。その改札口は、大阪駅の西側に新たに開設された西口と改札内地下通路で結ばれることになる。地下ホームにはこれまで大阪駅に乗り入れがなかった関空特急「はるか」や和歌山方面行き特急「くろしお」が停車し、関西国際空港から直結できるようになり、関西国際空港から大阪駅までの所要時間もこれまでの約67分から約47分に短縮され、利便性が格段に向上する。新駅は、JR西日本がイノベーションの実験場『JR WEST LABO』の中心と位置づけていることから、最新の設備と技術を備えた近未来的な駅の様相になるという。まず目を奪われるのが新駅に導入されるインタラクティブ空間だ。

「2024年夏にうめきた2期地区の先行まちびらき、その後25年に大阪・関西万博が開催され、31年になにわ筋線の開業と、今後ますます大阪の鉄道ネットワークの起点となるのが、JR『大阪駅(うめきたエリア)』です。関西の鉄道ネットワークの中心としてこれからも見守っていただけたら」と話す、小森一さん/西日本旅客鉄道株式会社(鉄道本部 イノベーション本部 うめきたPT 担当課長)

「2018年に策定された『JR西日本技術ビジョン』のひとつであるデジタル×リアルが生み出す新たなサービスとして、地下のコンコースに幅14m×高さ3.3mと壁一面にプロジェクションスクリーンと液晶ディスプレイが備えられ、それらに水都大阪をイメージした水景が映し出されます。スクリーンに映し出される内容は、水中で魚が泳ぐ様子を撮影した実写映像とデジタルCGを融合したものです。それが移りゆく時間とともに映像も朝から夕暮れと刻々と変化していきます。この空間は大阪駅(うめきたエリア)のシンボル的な場所になるでしょう」と話すのは、JR西日本のイノベーション本部の小森一さんだ。水の都をイメージした光の水景の空間は、梅田エリアの新たなランドマークになりそうだ。

インスタレーションを手掛けるのは、株式会社丹青社と株式会社ルーセントデザインの松尾高弘さん。スマート・ラグジュアリーホテルの「コンラッド大阪」のロビーを彩る光のアート作品などが人気の気鋭のアーティストだ。

また新駅には世界初の設備が2つ導入される。そのひとつが「One to One」と名付けられたデジタル可変案内サインだ。アプリケーションの利用を介して、サイネージに各々が設定した行先を表示してくれる自分だけの案内板になるという。 「移動生活ナビアプリWESTERのスマホアプリを事前にダウンロードして、あらかじめ行先を登録しておきます。そうすることで、コンコースに到着するとスマートフォンに自分専用のマークが通知され、案内サインに近づくと自分専用のマークと設定した目的地への進行方向が表示される仕組みです」と小森さん。自分の行き先を丁寧に教えてサポートしてくれるコンシェルジュのような存在だ。

上部からつり下げた床から天井まで全面ガラス張りの扉が、到着した列車によって、左右に移動し自在に開口部をつくる。また全面的にデジタルサイネージが表示され、乗車位置や次の列車などを案内してくれる。

最大の目玉となるのがもうひとつの世界初導入となる設備「フルスクリーンホームドア」だ。新駅の地下ホームには一般列車のほかに「はるか」や「くろしお」など複数の特急列車が乗り入れるが車両の開口部はそれぞれ異なっている。この床から天井まで全面ガラス張りのフルスクリーンホームドアはあらゆる列車のタイプに対応可能で、到着した電車のドア位置にあわせて、まるで襖のようにドアが自在に動く。さらにドアは全面デジタルサイネージになっており、発車時刻や行き先、乗車位置などを多言語で表示することで、初めて大阪にきた乗客や海外からの旅行者にもわかりやすい駅を目指している。 とはいえ自由自在に動くホームドアは、安全対策についてはどういった配慮がされているのだろうか。その点に関しても問題はないと小森さんは太鼓判を押す。 「列車が到着するとその列車の形式と位置を自動検出してホームドアが開きます。開いているドアが閉まるときは、これまでのホームドアとは動きが異なるため、お客様を挟んでしまうというリスクに対しては、従来のドア以上の対策が必要です。そこで、センサーで人を検知するようにして、何か異常があれば一時停止するようにしました。挟まれてお怪我をされるようなことはまずありません。私も試しに挟まれようとしましたがしっかり検知されました(笑)」

「JR『大阪駅(うめきたエリア)』は、2期開発区域の玄関口であり、2期開発区域の発展が多くのお客様に鉄道をご利用いただけることにつながります。今後もなにわ筋線の開業に向けた工事が継続するため、さまざまな方々と協力してうめきたエリアの発展につなげたいと考えています」と河端邦彦さん/西日本旅客鉄道株式会社(大阪工事事務所 うめきた工事所所長)

そうした画期的なシステムだが、ホームドアを設置するにあたって苦労も多かったという。「今回のうめきた地下ホームは急な曲線に沿ったホームになっています。一方で設置するホームドアは直線です。となると曲線に沿って直線の自動ドアを設置しなければなりません。ミリ単位で測量して設置していくという苦労がありました」とJR西日本うめきた工事所所長の河端邦彦さんは語る。

ホームの曲線に沿って設置されたフルスクリーンホームドア。ミリ単位での調整を重ね、ピタリと納められている。(画像提供:西日本旅客鉄道株式会社)

JR西日本がイノベーションの実験場と謳うように、新技術を搭載したさまざまなサービスを提供していく。例えば改札口にはゲートを設けないウォークスルー型の顔認証自動改札機を設置し、事前に専用のWebサイトで顔を登録することによって文字通り“顔パス”で通過できる実証実験を行なうサービスや、AI自動応対機能を搭載したみどりの券売機「みどりの券売機プラス+AI」・「AI案内ロボット」など、次世代のシームレスな移動サービスの構築に向けた取り組みが満載だ。 さらに「みどり」と「イノベーション」の融合拠点である新しい街にふさわしく環境負荷軽減の取り組みにも余念がない。JR西日本は「大阪駅(うめきたエリア)」を初の電力由来CO2排出実質ゼロのecoステーションとして実現することをめざしている。 「環境にやさしいecoステーション実現の一環として、一般共用施設への採用計画としては世界初となるフィルム型ペロブスカイトの太陽電池を駅に導入します。地上広場につけるのですが、フィルム状で超軽量かつ柔軟性があるので、曲面などさまざまな場所に設置が可能です。また、地域冷暖房のシステムを地下駅だけでなく大阪駅エリア、郵政ビル、うめきたエリア全体に導入しており、まとめて熱源を供給することで、コスト面だけでなく、環境にも配慮し、持続可能な開発を継続できる仕組みを構築しています」と河端さんは説明する。 「イノベーションの実験場としてこれまで一致団結して取り組んできた結果が、3月でようやく実を結びますが、それはまた新しいスタートでもあります。実験場という位置づけはこれからも継続していき、いろいろな方々とともに新しい街と駅を育てていきたいです」と小森さんは静かに意気込みを語る。 関西エリア全体のネットワークの強化の要でもあり、さまざまな新技術を持つパートナーと共創したイノベーションを具現化し成長を続けていくJR「大阪駅(うめきたエリア)」。次世代のステーションを、ぜひその目で確かめ体感してほしい。

小森一(こもり・はじめ)
2002年にJR西日本に入社。鉄道車両のメンテナンスを専門に、品質管理、生産管理、現場運営など幅広い業務に従事してきた。また、人財開発を始めとした人事マネジメントや、鉄道車両メーカーの海外工場の立ち上げ・運営なども経験している。2021年6月から現職、本プロジェクトを推進するとともに、イノベーションの実験場である「大阪駅(うめきた地下口)」から新しい価値を創造するべく、新規事業開発にも取り組んでいる。
河端邦彦(かわばた・くにひこ)
2001年にJR西日本に入社。おおさか東線や富山駅付近連続立体交差事業などの建設工事に従事してきた。また、東海道線支線地下化・新駅事業の当初計画を始めとした鉄道施設改良計画立案や設備投資計画等の業務にも従事、国土交通省都市局への出向経験もあり、鉄道とまちづくりに関する業務を幅広く経験。2021年6月から現職で、東海道線支線地下化・新駅事業、大阪駅西口改札整備の推進に取り組んでいる。

写真:内藤貞保 文:脇本暁子