
人と組織の経営コンサルティングファームMIMIGURIの代表取締役Co-CEOで、『冒険する組織のつくりかた』の著者・安斎勇樹さん、高機能材料メーカー日東電工で事業開発を推進する北川祐矢さんをゲストに招き、第7回の公開収録を開催しました。モデレーターは、おもちゃクリエイター高橋晋平さん。MCは、奥田涼です。 「イノベーション」をテーマに掲げつつ、今回のトークの中心は新規事業のリアル。北川さん(日東電工)の取り組みを軸に、それぞれの視点が交わり、組織/個人/文化/欲といった切り口で「イノベーションの条件」が浮かび上がる時間になりました。
戦意喪失しそうな倍率なのになぜ?——2,500件以上のアイデアが集まる「Nitto Innovation Challenge」

イベントは、北川さん(⽇東電⼯)の取り組み紹介からスタート。家庭でおなじみの掃除道具「コロコロ」から、地球温暖化対策につながる分離膜などのソリューションまで、日東電工は一見まったく違う多様な製品群を開発しています。背景には「Global Niche Top™」を目指す姿勢と、フィルム/テープ/膜など“薄いものづくり”を核に、既存の強みをにじませながら新領域へ持ち出す「三新活動」というアプローチがあります。 印象的だったのが、全社員を対象にした新規事業アイデアコンテスト「Nitto Innovation Challenge」。世界中の約3万人の社員から2025年度には2,500件以上のアイデアが集まり、一次・二次予選→準決勝→決勝を経て、優勝者には予算とチームが与えられる仕組みです。 「2,500件の応募で優勝は1件程度。戦意喪失しそうな倍率なのに、みなさんなぜ応募するんでしょう?」——安斎さんの問いかけどおり熾烈な競争ですが、応募数は年々増えていると。 北川さんは、その理由の一端をこう語ります。 「想像ですが、日東電工には新しいことをしたい動機を持つ人が多い。その気持ちを開放する場を設定しているだけなんです」 応募案件のすべてへの丁寧なフィードバックで翌年の再挑戦を促す運営も功を奏しているそうです。 「通らない企画なんてないと思うんです。通るまでやればいいんです」 北川さんの一言に、挑戦を支える同社のカルチャーがにじんでいました。
MIMIGURIは、組織として完全にうまくいっているのか?

高橋晋平さんの問いに応える形で、視点は“組織のマネジメント論”へと移りました。 安斎さんは、著書『冒険する組織のつくりかた』でも述べるとおり、企業経営に長く染みついた軍事的世界観への“無自覚さ”に注意を促します。「戦略・戦術」といった軍事的なメタファーに寄りかかりすぎると、目の前の人を手段として道具化してしまう——という指摘です。 「最近、急激に相談が増えたのが不動産や人材紹介などの営業組織。これまで“売ったら儲かる”という個人インセンティブでモチベートしてきたのに、それが効かなくなってきている」 その背景には、内発的動機の重要性が高まっていることがあります。 「“これ売ったら報酬いくら?”の裏側で、案件数をこなすより少ない顧客に深く向き合う方が幸せとか、クライアントの業界を変えていく方がモチベーションアップにつながるとか、何に興奮するかは人それぞれ。それを知らないままマネジメントしてしまっている」 だからこそ、内発的動機を経営資源として扱い、関係性の設計から始めることが重要だと強調します。突き詰めると、最大の課題は「お互いをよく知らない」こと。 「大事なのは自己紹介。自己紹介が足りていないと、お互いの欲や強みが見えず、協働の接点が生まれない」 ——誰が何にワクワクするかしっかり知り、可視化すること。当たり前のようで難しい “自己紹介”の奥深さを、あらためて実感しました。

では、見出しの問い——「MIMIGURIは、組織として完全にうまくいっているのか?」への答えはどうか。 フルリモートでもオンライン全社総会などでカルチャーを定期的に可視化・共有する仕組みを運用しており、安斎さんはこう述べます。 「『冒険する組織のつくりかた』の理想を完全に実現できているかといえばできていないとは思いますが、基本的にはうまくいっている方だと思います」 一方で、課題も隠しません。 「対話とか探究とか一般的に疎かになりがちな部分の重要性を主張しすぎるせいか、数字など経営として重要な部分を軽視していると誤解されることもある」 ———もちろん課題はある。でもそれは、冒険的組織を目指しているが故の最先端の課題だとも言えるなぁと、なんだか羨ましさを感じました。
ふたりが考えるイノベーションに必要なこと

後半は、番組恒例のカードトーク。北川さんが選んだカードは、「失敗/文化/なんとかする」——座学では得られない失敗からの学び、それを支える文化、そしてノックアウト要因の見極めとピボットで“なんとかする”姿勢”を教えてくれます。 安斎さんが選んだカードは、「欲/仲間/文化」——モチベーションの継続に執着するほどの欲の大切さ、応援者=推してくれる人がいかに大事かであるかということ、物差し(価値基準)を変える文化のイノベーションなど、人・組織マネジメントのヒントに満ちた時間でした。ちなみに、なぜ、安斎さんが軍事的世界観を否定したかったのかという話は必聴です。 ふたりがカードを選んだ詳しい話は、ぜひ音源で聴いてみてください。 収録内容は、JAM BASE公式Voicyチャンネル「イノベーションは、いっぱい飲みながら。」で、全5回に分けて公開します。また、よろしければ番組をフォローしていただけると、嬉しいです。
続きは順次公開予定です!お楽しみに!
▼出演者プロフィール
ゲスト| 安斎 勇樹さん 「MIMIGURI」代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。 ・VoicyCH 「安斎勇樹の冒険のヒント」 https://voicy.jp/channel/4331 ・ウェブサイト http://yukianzai.com/ ・note https://note.com/yuki_anzai/ ・MIMIGURIコーポレートサイト https://mimiguri.co.jp/ ・組織づくりの最新知見を学ぶ「CULTIBASE」 https://www.cultibase.jp/ ・安斎さんの過去の著作 https://amzn.to/43JCPzj
ゲスト| 北川 祐矢さん 日東電工株式会社 全社技術部門 事業開発本部長

2002年、京都工芸繊維大学工芸科学科高分子学修士課程を修了後、松下電工株式会社に入社。電子材料の開発に従事。2008年、日東電工株式会社に参画。半導体封止樹脂成形の開発に従事。2011年に日東ヨーロッパ(ベルギー)に出向し、半導体分野、自動車分野を中心とした技術調査、産官学連携、新規事業開発に従事。帰国後、モビリティ関連分野、及び、脱炭素関連分野で計10年以上の新規事業開発を経験。 2025年4月に全社技術部門 事業開発本部 本部長に就任し現在に至る。 ・日東電工株式会社 https://www.nitto.com/jp/ja/
モデレーター| 高橋 晋平さん 株式会社ウサギ

2004年に株式会社バンダイに入社。第1回日本おもちゃ大賞を受賞し、世界累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、アイデア玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2013年にはTEDxTokyoに登壇し、アイデア発想に関するスピーチが世界中に発信された。2014年に独立起業し、株式会社ウサギを設立、代表取締役に。現在は、各種企業と一緒に玩具・雑貨・ゲームなど、遊びにまつわる商品開発や販売、企画チーム作りに携わるなど幅広く活動。著書『1日1アイデア』KADOKAWA、『ボードゲームづくり入門』岩波ジュニアスタートブックス。 ・VoicyCH 高橋晋平の『1日1アイデア』 https://voicy.jp/channel/1883 ・株式会社ウサギ https://usagi-inc.com/ ・X https://x.com/simpeiidea