2026年5月28日、日本の医療・ヘルスケア分野のスタートアップが世界へ羽ばたく契機となるイベント「J-StarX Healthcare Acceleration Program “MedTech Cohort” Demo Day」が、JAM BASEおよびオンラインのハイブリッド形式で開催されました。 9ヶ月の研修を経た選抜企業が、世界中の投資家へ渾身のピッチを披露しました。
世界を変える「スーパーヒーロー」たちへの敬意
冒頭、MedTech ActuatorのCEOバズ・パーマーさんが登壇。「創業者とは世界の本当のスーパーヒーロー」と語り、高いリスクを背負い情熱でヘルスケアのイノベーションに挑む起業家たちへ最大級の敬意を表しました。また同氏から、組織が8年目を迎え新たに英国オフィスを開設すること、さらにシスターファンド「Synthesis Capital」がファーストクローズで6,000万ドル(約90億円)の資金調達を達成し、7月から投資をローンチするというエキサイティングなニュースも発表されました。
ヘルスケアという長い旅を支えるエコシステム
続いてJETROの樽谷範哉さんが登壇。メドテック領域のグローバル展開は成果が出るまでに3〜5年、あるいはそれ以上かかる「忍耐が必要な長い道のり」であると強調しました。その上で、「JETROは単発の支援ではなく、メンタリングや海外VC、クライアントとの交流の機会を継続的に提供していく。大阪から、そしてこのプログラムから次のユニコーン企業が誕生するのを楽しみにしている」と語り、現地のパートナーや投資家へ向けた協力を力強く呼びかけました。
なぜオーストラリア・メルボルンなのか?
参加企業を代表しBiPSEEの上木原広平さんに登壇いただき、豪州メルボルンの魅力やプログラムの「2フェーズ制」の意義を語りました。現地を広く理解するフェーズ1を経て、フェーズ2では各社に合わせた完全なテイラーメイド型となり、同社もVRうつ病治療を研究するメルボルン大学のラボへ直接アテンドされ、帰国後も続く良好な関係を築けたといいます。同氏は「英語圏、多民族、高所得で新技術を受け入れる土壌がある豪州は、日本人が世界へ挑む試金石として最適」と、現地に足を運ぶ重要性を熱弁しました。
各国の規制やシステムの壁を越える、9ヶ月の成果と共創への期待
MedTech Actuator Japanの東純一氏が登壇。2期目となる本プログラムについて、起業家が海外エコシステムに直接アクセスし、世界戦略を実践するための支援を行ってきたと語りました。9ヶ月間の豪州渡航や壁打ちを通じ、単独では突破困難な「各国の規制や保険システムの違い」を見据えた緻密な事業検証の歩みを回顧。「医療領域の事業化には専門家や投資家の支援が不可欠。本日は卒業式のような舞台だが、今後も各社への継続的なご支援をお願いしたい」と呼びかけ、会場を提供したJAM BASEやさくらインターネットへ深く感謝を述べました。
ピッチセッション〜未来のヘルスケアを創る7社の挑戦〜
メインコンテンツであるピッチセッションでは、厳しい選考を勝ち抜いた精鋭7社が、英語と日本語を交えた非常に質の高いプレゼンテーションを行いました。
【ピッチ登壇企業】
株式会社Splink(Demoさん)
<事業内容> 認知機能テストから脳のMRI解析、PET解析までを網羅し、認知症の早期発見・早期診断をサポートする医療テクノロジー・製品ポートフォリオの開発。 <ピッチの熱量> 「症状が出始めてから診断を受けるまでに1〜3年かかるのはあまりにも遅すぎる」と語るDemoさんの言葉には、3秒に1人が認知症と診断される現代社会への強い危機感と、手遅れになる前に救いたいという強い使命感が宿っていました。すでに国内50以上のクリニックでの導入や、トヨタ自動車との脳の健康意識向上に関する契約締結など、確かなトラクションを提示。今後はNEDOグラントを活用した海外展開を見据え、世界中の認知症課題を解決していくというグローバルチームの力強いビジョンが会場の期待を集めました。
株式会社FerroptoCure(CEO:大槻 雄士さん)
<事業内容> がん細胞が持つ強力な抗酸化システムを破壊し、強力ながん細胞死を誘導する、薬剤耐性が課題の乳がん(TNBC等)に向けた新規経口低分子抗がん剤の開発。 <ピッチの熱量> 「がん細胞の強固な防御システムを破壊し、次世代のがん治療を開発する」という製薬スタートアップとしての非常に高い志が伝わるピッチでした。すでに日本国内でのファースト・イン・ヒューマン(FIH)臨床試験を終え、安全性と初期臨床シグナルを確認済みという圧倒的なスピード感をアピール。今年はオーストラリアでの次相臨床試験の開始を控えており、乳がんのみならず「あらゆるがんに適応拡大可能」という巨大な市場へ挑む強固なチーム力と、パートナー企業との共創へ向けた熱意が会場を惹きつけました。
MY ROBOTS株式会社(宮崎洋一さん)
<事業内容> AIを活用して手術動画から重要なtipsや意思決定ポイント、トラブルシューティングを抽出し、医師が検証した再利用可能な手術マニュアル(知識インフラ)を自動生成するプラットフォーム。 <ピッチの熱量> 「手術は記録されているが、医師の『判断』は記録されていない。すべての手術を再利用可能なナレッジに変えたい」と語る宮崎さんの言葉には、医療機器業界で30年の経験を積んできたからこその深い洞察と切実な現場への想いが溢れていました。若手外科医の減少や手術エラーという深刻な課題に対し、千葉大学や米Mayo Clinicでの検証実績を携えて登壇。10分間の手術時間短縮や病院のコスト削減に直結する独自の「外科的判断力の保存技術」を提示し、実用性の高さで会場の強い関心を集めました。
PaMeLa株式会社(CEO:後藤 宏明さん)
<事業内容> EEG(脳波)と8万件のデータで学習したAIモデルを掛け合わせ、主観的で標準化が難しかった痛みを、0〜100の客観的なスコアとしてリアルタイムで可視化する疼痛測定デバイス「PMS2」の開発。 <ピッチの熱量> 「痛みはあまりにも長い間、見えざるものとして放置されてきた」と訴え、PaMeLaが痛みを可視化し対策可能に(actionableに)するという言葉には、世界的な高齢化に伴い拡大する疼痛管理の課題に終止符を打つという確固たる覚悟が宿っていました。アセスメント時間を最大90%短縮し、すでに大手企業から収益を上げている実績を提示。国内でのPMDA申請準備や、豪州の専門家との臨床エビデンス拡充など、グローバル進出への明確な臨床パスと高い優位性を示し、会場を唸らせました。
ViveSpoon(まさふみさん)
<事業内容> 離脱率が高いアプリ治療とスケールしにくい認知行動療法(CBT)の課題を、臨床医用コンソールと過食・嘔吐前のタイムリーなサポート機能(Spoon DTx)で両立・解決する摂食障害のためのデジタル治療薬開発。 <ピッチの熱量> 20歳の女子学生「ハンナ」のストーリーを通じ、見た目は普通でも心の中で過食のループに苦しむ患者の孤独にそっと寄り添う、非常にエモーショナルで温かいプレゼンテーションでした。「過食衝動が起きるその瞬間にタイムリーなサポートを提供し、一人にさせない」という仕組みは、Feasibility study(実証実験)を日英両国ですでに開始しているという確かな裏付けに基づいています。今後の開発と臨床試験に向け、100万ドルの資金調達と販売パートナーを求めるまさふみさんの熱い呼びかけに、会場からは深い共感の拍手が送られました。
株式会社ekei labs(創業者兼CEO:Bilal Kharouniさん)
<事業内容> 創薬開発における90%という高い失敗率を打破するため、独自の高解像度シーケンシング技術とAIを活用し、環境変化をリアルタイムで捉える「エピゲノム(後天的な遺伝情報)」を解析するエコシステムリサーチプラットフォーム。 <ピッチの熱量> 遺伝子ではなく動的なエピゲノムに焦点を当て、「クライアントにとって生死に関わるような『この薬は本当に効果があるか、安全か』の答えを提供する」と言い切るBilalさんの自信に満ちた佇まいが印象的でした。沖縄科学技術大学院大学(OIST)を拠点とする卓越したR&Dチームを率い、今期の売上目標の60%をわずか2ヶ月目で達成しているという圧倒的なトラクションを提示。大手企業による買収や巨額の資金流入が続く大注目の市場において、臨床試験の成功率を予測する強固なインフラを築くという野心的なビジョンが光っていました。
株式会社BiPSEE(CEO:上木原 広平さん)
<事業内容> 主要な心理療法であるCBT(認知行動療法)をVRで没入型体験にデジタル化し、言語対話だけでは内容を理解しにくかった患者でも効果的かつ直感的に実践できる、世界初のうつ病向けVRデジタル治療(DTx)の開発。 <ピッチの熱量> 世界で2億人以上が苦しむうつ病に対し、「心理療法を受けられる患者が限られている現状を、没入型のVR体験で変革し、より多くの人が治療へアクセスできるようにする」というコウヘイさんの言葉には、メンタルヘルスケアのギャップを埋めるための強い情熱が込められていました。日本のPMDAからファストトラック(米国向け)の相談ステータスを得ており、従来の抗うつ薬や他アプリを上回る効果量を実証。すでに豪ドル4.3Mを調達済みの強固な基盤を強みに、さらなるグローバル開発パートナーの獲得へ向けた確固たる決意が伝わりました。
次なるステージへ 〜世界で輝くその日まで〜
7社の熱いピッチが終了すると、会場からは惜しみない大きな拍手が送られました。今回のデモデイは決して「ゴール」ではなく、日本発のMedTechスタートアップがグローバル市場へと本格的に漕ぎ出す「スタートの瞬間」となりました。 ピッチ終了後は、さくらインターネット等の協力のもと、3Fの「Blooming Camp」にてネットワーキング(交流会)が開催され、国内外の投資家や事業会社と起業家たちが遅くまで熱い議論を交わしました。世界を変える彼らの挑戦は、ここ大阪からさらに加速していきます。
ネットワーキング(交流会)の様子
