吉森保さん
JAM BASEがお届けするVoicyチャンネル『イノベーションは、いっぱい飲みながら。』 今回のゲストは、大阪大学名誉教授でオートファジー研究をリードする生物学者の吉森 保さん。そもそもオートファジーって?という話から、ファウンダーとして自ら起業した「AutoPhagyGO(オートファジーゴー)」の活動など、老化研究の最前線を語ってくださいました。恒例のキーワードトークでは《予想外》《キュリオシティ・ドリブン》《偶然と必然》という三つのキーワードを軸に、研究者ならではの視点や哲学が浮かび上がりました。
生き物は、細胞でできている——オートファジー入門
吉森さんはまず、生命の基本単位は細胞であり、人間は約37兆個もの細胞からできていることを強調しました。病気や老化はすべて細胞レベルで起こる現象であり、逆に健康であるとは「細胞が正常な状態を保てていること」だと話します。 「体を構成するさまざまな組織は細胞の集まりであり、細胞が機能を失ったり異常に働き始めれば、やがて臓器や組織の機能が低下し、それが老化や病気として現れるんです」 そんな細胞の健康を支えるのが、オートファジー。 オートファジーは細胞内の成分や壊れた小器官、侵入した病原体までを包み込み、運び、分解して再利用する“細胞内リサイクル”の仕組みです。 「パックマンみたいなものが色々なものを包み込んで運ぶのです。運び先にはリソソームという“リサイクル工場”があって、ここで分解し、アミノ酸などにばらして再利用するのです」 細胞内には発電所(ミトコンドリア)や工場、病院のような役割分担があり、タンパク質がまるで社会の人々のように働いているそうです。オートファジーはその“交通網”の一部であり、細胞が健康を保つために欠かせない機構だと解説してくれました。
老化がコントロールできる世界
「オートファジーがきちんと働き続ければ、認知症のような病気にはならないかもしれない」 しかし残念ながら、オートファジーは加齢とともに低下していくそうです。その原因の一つが、吉森さんの研究グループが発見したRubicon(ルビコン)というタンパク質。Rubiconはオートファジーの“ブレーキ役”で、年齢とともに増えることでその機能を抑えてしまうのです。 もし、Rubiconの増加を止めることができたなら? 吉森さんのチームでは、Rubiconを制御する研究をすすめています。実験動物による実証では、Rubiconを制御すると、寿命の延びや、加齢に伴うさまざまな疾患の発症が抑えられることがわかってきました。 「大切なのは、寿命そのものではなく健康寿命です」 日本人の平均寿命と健康寿命の差は約10年あり、人生の最後の10年間を病気で過ごす人が多いのが現実だそう。研究が進み、オートファジーを自在にコントロールする世界になれば、私たち人間にとっての永遠の課題、老いを恐れることが無くなるのかもしれません。
研究から社会実装へ —— AutoPhagyGOとXPRIZE
「新しいことをやるのに、年齢は関係ない」 オートファジーの基礎研究で世界をリードする日本ですが、特許や社会実装では他国に遅れをとっているという現状があります。吉森さんはこの溝を埋めるため、自らAutoPhagyGOを立ち上げました。 同社はオートファジーの計測や、食品・化粧品・サプリメント・ペットケア・診断薬など、幅広い分野での応用を目指しており、そこで得た利益を再び基礎研究へ還元する循環型モデルを構想しています。 また、AutophagyGOを中心としたチームで、アメリカの財団が主催する国際コンペティションXPRIZE Healthspanに参加し、準決勝進出を果たしました。XPRIZE Healthspanからの課題は「人間を少なくとも10歳若返らせる」こと。賞金は1億ドル超えという規模で、AutoPhagyGOチームは臨床試験の準備を進めています。「賞金はあくまで結果。得られたノウハウを広く共有したい」と吉森さん。日本でも老化研究がもっと盛り上がるべきだと訴えました。
《予想外》《キュリオシティ・ドリブン》《偶然と必然》——研究者の哲学
吉森さんが思うイノベーションに必要なこと。選んだキーワードは、《予想外》《キュリオシティ・ドリブン》《偶然と必然》です。 特に印象に残った言葉をいくつかご紹介します。 まずは、《予想外》というキーワード。 「研究は予想外の連続です。失敗だと思った実験から大きな発見が生まれることだって多い。大事なのは偶然に気づき、拾える眼と粘り強さだと思うんです」 科学史でも多くのセレンディピティが大発見を生んでおり、予想外を楽しむ姿勢こそがイノベーションの源泉だと説きました。 そして、《キュリオシティ・ドリブン》。 「目標を決めるより、自分の好奇心に従って動く。そこからのほうが大きいイノベーションが生まれる。好奇心は放っておくと減るから、意識して育てることが大事です」 目標設定ばかりを求められる社会に対し、「目標がなくてもいいのでは?時には、好奇心に従った方が新しいものが生まれるかもしれない」というメッセージは、ズッシリ私の心にも響きました。 予想外を楽しみ、好奇心に従い、偶然を拾い必然へと変えていく——研究者である吉森さんの哲学の一部を感じとれる素敵な時間となりました。全編はぜひVoicyで聴いてください。3回に分けて配信します。
<出演者プロフィール> ゲスト| 吉森 保さん -株式会社AutoPhagyGOファウンダー -大阪大学名誉教授・大阪大学医学系研究科寄附講座教授 1981年大阪大学理学部生物学科卒業。同大学院医学研究科博士課程、関西医科大学助手、ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)博士研究員を経て、1996年オートファジー研究のパイオニア大隅良典先生(2016年ノーベル生理学・医学賞受賞)が国立基礎生物学研究所にラボを立ち上げられたときに助教授として参加。2002年国立遺伝学研究所教授として独立後、大阪大学微生物病研究所教授を経て2010年から同大学院生命機能研究科及び医学系研究科教授。2017年大阪大学栄誉教授の称号授与。2018年〜2022年生命機能研究科長。2025年から現職。 文部科学大臣表彰科学技術賞(2013年)、日本生化学会・柿内三郎記念賞(2014年)、Highly Cited Researchers(2014, 2015, 2019, 2020, 2021, 2022年)、上原賞(2015年)、持田記念学術賞(2017年)、紫綬褒章(2019年)を受賞。 日本細胞生物学会会長(2016〜2018年)。2019年大学発ベンチャーAutoPhagyGO Inc.を創業。一般社団法人・日本オートファジーコンソーシアム(代表理事:2020年〜2023年、理事:2024年〜)。論文の総被引用数が、分子生物学領域で国内2位、世界22位(2019年)。 ・株式会社AutoPhagyGO https://autophagygo.com/ ・吉森研究室 https://yoshimori-lab.com/ ・著書 「LIFE SCIENCE」 ・著書「生命を守るしくみ オートファジー」 ・著書「不老長寿の食事術」
