哲学者・朱 喜哲さん
JAM BASEのVoicy公式チャンネル「イノベーションは、いっぱい飲みながら。」 今回のゲストは大阪大学の社会技術競争研究センター招へい准教授、および株式会社電通のチーフリサーチディレクターである哲学者・朱 喜哲(チュ ヒチョル)さんです。 「哲学とビジネスって?」という大きな問をベースに、Voicyナビゲーター佐々木、奥田、窪庭から、ヒチョルさんに 質問をぶつけまくる思考を深める時間となりました。
なぜ「正しい言葉」ばかりが求められるのか?朱氏が語るバザールとクラブの理論
「公正(フェアネス」「ネガティブ・ケイパビリティ」「AIと哲学」「哲学的な子育て」など、興味深いテーマが語られた前半。特に興味深かったのはアメリカの哲学者リチャード・ローティの論稿をヒチョルさんが解説する著書で『バザールとクラブ』の紹介をきっかけとした、現代企業が直面する組織文化のあり方に関するトークです。 ヒチョルさんは、現代企業が直面する「規範と創造性のジレンマ」を理解するためのフレームワークとして、現代社会のコミュニケーション空間を「バザール」と「クラブ」の二つの概念に分け、そのバランスが崩れている現状を指摘します。なお、ここでいうバザールとは、誰もが参加し、発言の正しさや倫理が厳しく問われる公的な空間を指します。一方、クラブとは、身内ならではの信頼関係があり、未完成なアイデアや不完全さを許容し合える私的な空間のことです。
朱 喜哲さん著書の一部
「「今、企業は『私企業』でありながら、SNSの存在により常に炎上リスクを抱え、誰もが正しい言葉を使わなければならない『バザール』的な規範に晒されています。」 この結果、本音や不完全なアイデアといった「無秩序な発想」が組織内で萎縮し、創造性が失われる傾向が見られます。この息苦しさを解消し、創造性の源泉を守るために、信頼に基づき無秩序さや曖昧さを許容する「クラブ」的な空間が不可欠ではないかと、ヒチョルさんは話します。そして、このクラブ的な空間こそが、倫理(規範)の厳格さの裏側で、無秩序(創造性)を育むための安全地帯となるという示唆を提供してくれました。
イノベーションに必要なこと——倫理・技術・仲間
後半は、キーワードトークへ。「イノベーションに本当に必要なこと」として、ヒチョルさんが選んだ3つのキーワードは、 「倫理」「技術」「仲間」です。 ヒチョルさんは、イノベーションの出発点に不可欠なものとして「技術」を挙げた上で、それが社会実装される際に避けて通れない課題として「倫理」を選択しました。 「倫理は、単なるブレーキではなく、進むべき方向を定めるガードレール、ハンドルとしての役割を果たします」 と、現代のビジネスにおける倫理観の積極的な役割を提示します。倫理は企業活動を制限する「義務」ではなく、どこに全力でアクセルを踏むべきかを判断させるための、競争優位性を確保する上での指針となるという示唆です。 そして、この倫理的な判断と技術の推進を、誰が支えるのかという観点からの「仲間」というキーワード。技術の暴走を防ぎ、理念を共有しながら「べき論」ではない方向性を共に探る、実践的な仲間たちの存在が不可欠であると話してくれました。
哲学・倫理とビジネスという新しい視点に出会えるヒチョルさんとのお話は、4回に分けて「イノベーションは、いっぱい飲みながら。」で公開します。ぜひ聴いてください。
▼出演者プロフィール ゲスト| 朱 喜哲さん 研究者・企業内哲学者 大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)招へい准教授、株式会社電通チーフ・リサーチ・ディレクター。マーケティング・アナリティクスおよびプランニングに従事し、データビジネスの倫理的課題の研究と社会実装にも取り組む。 『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす』 『人類の会話のための哲学』『バザールとクラブ』 共著に『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』 『世界最先端の研究が教える すごい哲学』 『在野研究ビギナーズ』 『信頼を考える』など著書多数
